· 

令和7年度第4回(324回)Web講習会

日時:令和7年11月2日(日) AM8:30~PM12:10

会場:Zoomによるオンライン会場

内容

中村 覚先生
中村 覚先生

1)AM8:30~10:00

 良い鍼を考えよう

 東洋医学研究所®グループ中村はりきゅう院 中村 覚 先生

 

   今回の講義では『良い鍼って何だろう』と題しまして、各疾患のガイドラインを元に、鍼灸の可能性を示していただいた上で、鍼灸関連論文から鍼の打ち方に対する効果の違いを提示しながら、ご自身の臨床経験についても分かりやすく解説していただきました。

 診療ガイドラインは社会に対して強い影響を持っているため、現在の立ち位置を理解することは大切である。鍼灸の推奨度が記載されている国内の診療ガイドラインによると、最も推奨されるグレードの推奨度Aには脳卒中後の複合性局所疼痛症候群、次いで推奨度Bには脳卒中後うつ、線維筋痛症、片頭痛の急性期、片頭痛の予防、化学療法・放射線治療中もしくは治療後のがん患者の嘔気がある。

  この中でも黒野保三先生は線維筋痛症の特徴として、診断特異的圧痛点が鍼灸治療に使用される特定の経穴と一致していることを報告されている。

  そんな中で、鍼灸院に最も来院の多い『腰痛』に関しては、腰痛診療ガイドライン2019にて、『明確な推奨を提示できない』となっている。その理由として、山下らによって腰痛診療ガイドライン内の深刻な誤情報が複数発見されたことが報告された。

  診療ガイドラインで鍼灸治療が推奨されたとしても、「どのような鍼灸治療法や鍼灸手技が最も推奨できるか」を示す鋮灸診療ガイドラインのようなものは、現在のところない。しかし、条件を絞って「この疾患の場合は、浅刺よりも深刺が効果的である」や「このような症状には、置鍼や雀啄よりも、低周波鍼通電の方が効果的である」などと表現できる可能性はある。

  黒野保三先生が報告された合谷穴の深さについての実験の結果、腹部の痛覚闘値の上昇度は5~7mmの深さで最も高いことが示された。

それ以外にも刺激部位別の違いや刺激頻度別の違いについても論文を基に言及されて、良い鍼についての考察をお話しいただけました。

 

会員用ページ(パスワードが必要)にて動画配信しております。

岩瀬 敏 先生
岩瀬 敏 先生

1)AM10:00~11:00 

 自律神経学〜生活習慣病との機序〜

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

 愛知医科大学客員教授(脳神経内科) 岩瀬 敏 先生

 

 今回の講義では『生活習慣病とその予防』と題しまして、前回に引き続き高血圧について血圧を決める要因となる循環調整機構のお話から、それに伴う降圧剤の作用ないし、生活習慣の改善に至るまで丁寧に解説していただきました。

 循環調整機構の分類として短期的には圧受容器反射や化学受容器反射が対応し、中期的にはバゾプレッシン系、長期的にはレニン・アンジオテンシン血管収縮系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が関係している。この中でも薬物療法は後期に作用させることが重要である。

 レニンの産生によってアンジオテンシンⅡが増加するが、アンジオテンシンⅡの働きとして、1.細動脈を収縮し、血圧を上昇(強さはノルアドレナリンの4~8倍)。 2.中枢神経を介して、飲水行動の促進、バゾプレシンの分泌促進、ACTHの分泌促進により昇圧する。3.副腎皮質からのアルドステロン分泌を促進する。4.近位尿細管でのNa+再吸収を促進する働きをする。といった作用がある。

 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に作用する薬剤としてACE阻害薬がある。ACE阻害薬はアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡへの変換を阻害することによって、結果的に血圧の増加を抑える働きが見込めるが、効果発現までには2・3日の時間を有する。

 その他の降圧剤の種類として、血管を拡張させるカルシウム拮抗薬や体内にたまった水分をとる利尿薬など多くの薬剤が存在するが、日本人はむやみに量を増やすのではなく、併用することによって高い効果が見込める。

 生活習慣では、塩分を排出する働きのあるカリウムが入っている食品などを積極的に摂取することの有用性や、適度な運動は、心臓や肺の働きを向上させ、血液の循環を促進する効果があることをお話しいただき、薬剤に加えて生活習慣見直しの重要性を教えていただきました。

 

会員用ページ(パスワードが必要)にて動画配信しております。

澤田 誠 先生
澤田 誠 先生

2)AM11:10~12:10

 「感情」とはなんだろう〜脳と感情を考える〜

 第3回 感情の変容と疾患

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

  名古屋大学名誉教授 澤田 誠 先生

 

 今回の講義では『情動が変容する疾患』と題しまして、記憶という観点から疾患別による脳の中でおこるメカニズムの違いについて、分かりやすくお話しいただけました。

 感情の神経基盤として重要な脳領域として、扁桃体は脅威や快刺激を素早く検出し、自律神経系やホルモン反応を引き起こす。また、恐怖や不安と深く関係する。前頭前野は感情の制御や評価に関与している。それ以外にも島皮質や帯状皮質なども感情に大きくかかわっている。

 情動が変容するメカニズムとして、神経伝達物質の合成量が減少すると、うつ病や双極性障害、パーキンソン病を引き起こす。過剩産生されると、双極性障害や統合失調症、薬物依存といった疾患を引き起こすことがある。それ以外の原因として、神経伝達物質の貯蔵・放出の異常、受容体の異常、神経活動の異常があげられる。

 記憶に関して、双極性障害のうつ期はうつ病とほぼ共通し、具体的な過去の出来事を思い出せず、抽象的·一般化された形で想起する『過剰一般化記憶』などといった特徴を示すが、躁状態ではドーパミン系の過剰活性化により、注意・動機づけ·記憶の選択性を乱す特徴がある。

 また、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は「記憶の病」とも呼ばれるほどで、記憶の形成と再生に異常が生じる。PTSDでは、外傷体験(トラウマ)が脳に強く刻まれ、強烈に鮮明な断片的記憶(侵入記憶)として蘇る一方、その出来事の言葉での整理や時間的位置づけ(文脈記憶)に困難が生じる。恐怖記憶を増幅する回路(扁桃体)が過剰に働き、文脈づけ·制御を行う回路(海馬·前頭前野)が弱まる特徴がある。

 PTSDは効果的な薬物療法はなく、EMDRが効果的である一方で、EMDRはうつ病や双極性障の治療としては効果がなく、これらの疾患をしっかり診断して適切な治療をすることの重要性を示唆してくださいました。

 

会員用ページ(パスワードが必要)にて動画配信しております。