日時:令和7年7月6日(日) AM8:30~PM12:10
会場:Zoomによるオンライン会場
内容

1)AM8:30~10:00
月経困難症に対する鍼治療の検討
東洋医学研究所®所長 橋本高史 先生
今回の講義では『月経困難症に対する鍼治療の検討』と題しまして、基礎となる女性ホルモンから月経困難症の主な原因や病理についてお話いただいた上で、鍼治療の症例報告の解説をしてただきました。
女性ホルモンには主にエストロゲンとプロゲステロンの2種類があり、これらがバランスよく分泌されることで、月経周期の調整や妊娠の維持、骨や肌の健康など、体のさまざまな機能が正常に働く。しかし、睡眠不足や冷え、ストレスに運動不足など様々な要因によってホルモンバランスが乱れると、月経不順やPMS(月経前症候群)、更年期症状などの不調が現れることがある。
月経困難症は器質的疾患が無いにも関わらず月経随伴症状を認める機能性月経困難症と、疾患が原因で起こる器質性月経困難症がある。機能性月経困難症は、子宮内膜で発生するプロスタグランジンの過剰産生や、子宮から月経血を排出する際に子宮頸管が狭く子宮筋肉が過剰収縮することが原因である。器質性月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症などの疾患が原因であるものをさし、30~40代女性に多く認められる。
症例報告としては、機能性月経困難症の中年女性で、月経時には下腹部痛や頭痛、体の重さによって寝込んでしまい生活にも支障をきたしている患者に対して鍼施術を行われました。
症例では黒野式全身調整基本穴と三陰交に円皮鍼にて週2回、計44回の施術にて有益な効果を認められました。施術2回目では痛みも軽く学校休まずに通えるようになり、3ヶ月来院時には下腹部の腫れや張りが急激に改善されたとのことです。
黒野式全身調整基本穴は臨床調査に加えて研究によって刺入深度や強度を細かく検討されたうえで、再現性のある施術であることを教えていただきました。
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1)AM10:00~11:00
自律神経学〜生活習慣病との機序〜
(公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座
愛知医科大学客員教授(神経内科) 岩瀬 敏 先生
今回の講義では『自律神経学~生活習慣病とその予防』と題しまして、生活習慣病の中でも高血圧について血圧を決める要因に加えて、血圧の薬について作用機序についても分かりやすく解説していただきました。
生活習慣病とは、食生活や運動習慣、喫煙、飲酒などの生活習慣の乱れによって引き起こされる病気である。
血管の種類として大きく分けて動脈と静脈、毛細血管の3種類があり、この中でも動脈は弾性が強く、細動脈が一番収縮率高い特徴である。それに対して静脈は拡張しやすく血液が溜まりやすい。
血圧を決める要因は3つあり、1つ目に循環血液量(静脈還流量)の『前負荷』、2つ目に心一回拍出量×心拍数からなる『心拍出量』、3つ目に末梢血管抵抗である『後負荷』があげられる。
後負荷では、レニンアンジオテンシン血管収縮系の影響が大きい。作用機序は肝臓からアンジオテンシノーゲンが放出され、これが腎臓から出るレニンによってアンジオテンシンⅠに変換される。これをACEがアンジオテンシンⅡに変換し、血圧に影響を与える。アンジオテンシンⅡの作用は、細動脈を収縮して血圧を上昇する(ノルアドレナリンの4~8倍の効果)や中枢神経を介して昇圧を促すなど、多岐に血圧を上昇させる影響を与える。レニンアンジオテンシン血管収縮系は数日~数か月をかけて長期に血圧に変化を与えるのが特徴である。
それ以外にも、前負荷に該当する脳下垂体後葉から放出されるバゾプレッシンは、腎臓に影響を与えて尿量と尿中ナトリウム濃度を低下することで、血圧を上昇させる。バゾプレッシンは中期間の20分程度での変化を起こす。
降圧剤としては、レニンアンジオテンシン血管収縮系に影響を与えるACE阻害剤やARBなどがある。ACE阻害薬(カクトプリル)はアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡにしないことで降圧にする効果があるが、咳を増やすという副反応があることに注意が必要である。
それ以外にも日本人に多く用いられるカルシウム拮抗薬は心臓収縮と血管収縮 を押さえることで降圧を促す。また、利尿剤は循環血流量抑えることで降圧を促すが、夏場は高齢者が脱水になる危険性があるので注意が必要である。
このように血圧が上昇する作用機序を理解したうえで、薬がどのように効いているかを理解することが大切だと教えていただきました。
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2)AM11:10~12:10
「感情」とはなんだろう〜脳と感情を考える〜
第1回 感情の本質:AI は感情を持てるか?
(公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座
名古屋大学名誉教授 澤田 誠 先生
今回の講義では『感情の本質:AIは感情を持てるのか』と題しまして、感情について生物の行動を例にあげながら、人間との違いをお話いただいた上で、AIとの違いを分かりやすく解説していただきました。
感情は快・不快や喜怒哀楽・愛憎などの多彩な心理反応のことをいうが、当人しかわからない主観的な側面が『感情』、『気分』で、外部から観測可能な側面を『情動』という。
感情の最初の定義として、チャールズ・ダーウィンが動物にも感情があり、人間と共通なものを情動として観測できることを論じた。
ショウジョウバエは危険察知能力があり、人間と同じようにセンサーが全身に張り巡らされており、動作神経によって脳に伝達されて、有害光線をあてることで痛みから逃れる逃避行動が確認された。
また、線虫は視覚聴覚がなくドーパミン神経細胞がある。線虫は餌を発見した際に、このドーパミン神経細胞が活性化して、動きがゆっくりになり、その場に留まろうとする。線虫は餌を見つけた時の快楽を利用して捕食をする。
ここでの情動は生物学的な状態で、生存にとって好ましいか好ましくないかを判断基準とする。人間は大脳辺縁系にて、生命の大原則により重みづけが行われ、情報の取捨選択が行われる点が大きな違いになる。
また、人間は神経伝達を化学伝達で行うことによって、情報量の調整や情報を組み合わせることでバリエーションをつけることができる。
人間の感情は内受容感覚と外受容感覚という2つの情報を統合したときに脳の中で認知される。AIは生体反応がないので、内受容感覚がないために感情を持てない。つまり、AIは感情のふるまいは再現できても『意識(自己や感情を認知する高次機能)』は再現困難であるとの結論を、より詳細に説明していただきました。
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