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令和6年度第5回(319回)Web講習会

日時:令和7年2月2日(日) AM9:00~PM12:10

会場:Zoomによるオンライン会場

内容

岩瀬 敏 先生
岩瀬 敏 先生

1)AM9:00~10:30

 糖尿病の薬物療法について2

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

  愛知医科大学客員教授(神経内科) 岩瀬 敏 先生

 

 今回の講義では『糖尿病の薬物療法について②』と題しまして、前回の糖尿病の危険性や種類などの振り返りした上で、治療薬について詳しく解説していただきました。

糖尿病は多くの経口血糖降下薬が開発されており、その種類と原理を理解することが正しい治療につながると考えられる。

 最初の経口血糖降下薬としてスルホニル尿素薬が開発されてから、多くの薬が開発されている。近年でのファーストチョイスであろうDPP-4阻害薬は、インクレチンの分泌酵素であるDPP-4を阻害することでインクレチンの作用を長持ちさせ、膵臓からのインスリン分泌を促す効果があり、血糖値の乱高下を抑えて血管の損傷を減らす効果が期待できる。日本人はインスリン感受性が高く、インスリン分泌能が低下しやすい傾向にあることから、DPP-4阻害薬の効果が高い傾向にある。

 他の経口血糖降下薬としてSGLT-2阻害薬が開発され、腎臓での糖の再吸収を抑制させ尿としての糖排泄を増やすことで血糖値を低下させる作用がある。SGLT-2阻害剤は利尿効果があるので、糖尿病だけでなく、心不全や腎不全の予防効果も期待されるが、尿路感染症が頻発することがあるので、排泄する周辺の清潔さを保つことが大事になる。

 経口血糖降下薬を大きく分類すると、DPP-4阻害薬などのインスリン分泌促進系、SGLT-2阻害薬やαグルコシターゼ阻害薬の糖吸収・排泄調整系、ビグアナイド薬やチアゾリジン薬インスリン抵抗性改善薬に分けられる。特にインスリン抵抗性改善薬に関しては運動をすることで糖代謝を促す必要性がある。

上記のお話をしていただいた上で、薬に頼りすぎるのではなく、運動療法や食事療法を促すことの必要性と共に、医師だけでなくその他のコメディカルとの連携により生活改善の必要性を示唆してくださいました。

 

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澤田 誠 先生
澤田 誠 先生

2)AM10:40~12:10

 使わない記憶は変容し、劣化する(思い出せない脳)

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

  名古屋大学名誉教授 澤田 誠 先生

 

 今回の講義では『使わない脳は変容し、劣化する(思い出せない脳)』と題して、記憶がどのように形成され、また、変容するのかについてお話いただきました。

 記憶の情報はバラバラに点在しており、それが神経細胞同士のつながりによってできるネットワークが個々の記憶の正体である。記憶は感情が動いた情報には神経細胞が活性化し、神経細胞の肥大化がおこり記憶の長期増強につながる。

 一方、劣化しやすい記憶とは?例えば、幼児のMRIでの検査では、正常幼児は発達した明瞭な鉤状束が見られるのに対して、早期に社会的隔離された幼児は細く不完全である。成体サルの体性感覚野の変化として、手の指を切断した後、指に応答していた脳の皮質領域は応答しなくなる。眼では発達の臨界期において片目の視覚遮断を行うと、視覚野の皮質領域において変容が認められた。このことから、使わない脳は変容し、劣化することが確認できる。

 それ以外にも記憶は思い出すたびに変容する。短期的な記憶において脳の中で記憶が再生された時、記憶の中身はいったん失われ、思い出すと同時に改めてその中身を記憶し直している。この時に新しい情報があると記憶の内容に影響が出て、出来事の再評価が行われて記憶が変容する。また、記憶は相互に干渉しており似た記憶同士が混同されて上手く思い出せないというときがある。古い記憶が新しい記憶に影響する場合を順向干渉、新しい記憶が古い記憶に影響する場合を逆向干渉という。

 このように記憶は曖昧な部分も多く、変容しやすい性質を持っているが、もし忘れられないとどうなるか?例として、ソロモン・シェレシェフスキーは極度の共感覚により五感全てで記憶を形成しており、メモなどを取らずに一語一句正確に記憶することができ、いつまでも思い出すことができた。一方で忘れることができず、記憶を消すことができない。これは1つの音やイメージがいくつもの情報を呼び起こすような状態になることから、物事の本質を理解できなくなり家族ともうまくコミュニケーションが取れなくなった。つまり、記憶は変容することによって嫌な記憶を消し、現在と過去を区別できるようになっている。

 記憶の取捨選択は生命の大原則により感情によって変化し、危機の記憶は覚えやすく、身体反応を伴う。不快な身体反応は脳において弊害になるため改変が入り、身体反応を伴わないように自身を守る働きがあるとのことで、覚えるだけでなく忘れることの重要性についてもご講義をいただきました。

 

 

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