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黒野保三先生 定例講習会 詳細

平成26年6月1日

 「最近は不祥事という言葉が日常生活の中で、一般化しています。不祥事は人間が作ったものと考えられますが、現在の思想の中で人間自体が変えられてしまったのでしょうか。

我々の子供の頃は、世のためにという思想や行動は、違和感もなく生活の中に入っていました。人のために行うことをあえて言う人はなかったわけです。

 さまざまな職業がありますが、特に医療では医師になってから倫理を勉強するのではなく、医師になった時点で、その立場で最大限の努力をすることは当たり前であります。

では、倫理とはなんでしょうか?倫理とは哲学であります。その個人の人生観が基本であるので、人間性がダメであるなら正しく行えるわけがありません。日本人は欧米人にはない倫理観を本来もっているので、それをもう一度見つめなおす必要があるわけです。

 鍼灸診療にあてはめますと、鍼灸診療には学・術・道があります。この道が倫理に等しいわけです。この道を説いたのは中国の思想家である老子です。この中で言われていることの一つに、問題がおこるとそれに固執し、固執すると自我がでるために本質が見えなくなると言われています。鍼灸診療をあらためて考えたときに、この道に通じ本質を見極める神秘思想がわからないと 東洋医学のよさはわからないはずであり、それには人間性が含まれることを認識しなければなりません。

 鍼灸診療を行うとき医療として行うことはもちろんですが、医療家として行うことが本来の人間性が加味され、最大の治療効果を得ることができます。」と教えていただき、患者に対する過去から未来にわたる対応までを示唆していただきました。

平成25年7月7日

 鍼治療が鍼を刺入する場所、深さ、手技によって刺激量が変わることは経験的に知られていますが、鍼の刺激量を定量化したものはありません。そこで、鍼の刺激量を定量するための基礎研究や、なぜ定量化しなければいけないかについて黒野保三名誉会長に教えていただきました。

 「なぜ鍼の刺激量を定量化しないといけないのでしょうか。中国や韓国を中心とした世界では90%以上といっていいほど、電気鍼や得気を得る鍼治療しかおこなっていません。その証拠としてアメリカの雑誌に論文を投稿した際、日常臨床で使う鍼治療で行った結果の論文については、刺激量が少ないということで門前払いでした。

 しかしながら、日本人が通常臨床で使う鍼治療の効果がないとは、臨床経験からすればありえません。案の定、他の雑誌に投稿したところ、正式に受理されたことは言うまでもありません。

では、この鍼治療の特徴はなんでしょうか?そのためには、患者さんにとってどのような治療がいいかとういうことが答えになります。患者さんにとっていい治療とは、苦痛をあたえず、短い時間で、鍼治療の効果があがれば一番いいのです。そこで、我々の治療によって実際に何が変わっているかということを心電図や胃電図を用いて自律神経の反応としてとらえることに成功しました。学問的な言葉でいえば自律神経の副交感神経を有位にすることだとわかりました。これが癒しの治療の根本であります。世界中では交感神経を刺激する治療が多いなかで、日本の鍼治療をつぶされないためには、正当な理論に基づいた治療が必要になるわけであり、世界に発信することが必要であり私は続けております。」と教えていただきました。

 また、「鍼灸理論はサイエンスでなければならないことは当然のことでありますが、鍼治療を行う人の精神は、哲学的でなければなりません。」と教えていただきました。治療を行うのは人間ですから、その人間が高くないと、いい治療ができないのは当然のことであると鍼治療における内面の必要性も説かれました。

平成25年4月7日

 生体制御学会が公益法人になってから一年がたちました。全国に名を知られるような業績を発信することによって着実に発展してきました。その背景から鍼灸界に対して示唆に富むお話を黒野保三先生から頂きました。

 「世界からみた日本の鍼灸は、今や進歩発展もみられない異常な状態になっています。TPPの議論でも明らかになったように、日本の医療と農業は共通して国によって保護されています。自由経済の社会通念である危機感を感じないのでは、本当の競争力や発展は阻害されます。

過去、鍼灸界は嫌なことから目をそむけ、正しい情報に基づいた行動を起こしてきませんでした。一例をあげれば鍼灸学校設置にからむ当時の厚生省との裁判後に鍼灸学校の無制限な学校設置認可は、鍼灸師が正しく行動しなかった結果です。良いことは良いこと悪いことは悪いことと、本当のことは本当に知って行動していかなければいけません。

 小泉政権の医療改革という名の下の医療崩壊が始まって10年、残念ながら鍼灸界を取り巻くムードは良くありません。しかしながら公益社団法人生体制御学会は鍼灸を医療としてとり扱う集団です。したがって医療家として見識をもち、社会に対しても鍼灸医師であることをアピールできるようにならなければなりません。

 そのために、鍼灸師の将来に向けて以下のことを提言したいと思います。①医療家としての鍼灸医師再教育、②鍼灸大学における研究業績の義務化、③鍼灸専門医の法制化、④鍼灸診療専門医の認定、⑤医師による同意書の撤廃、⑥鍼灸師養成機関の専門学校の廃止、⑦医療界のオリエンタルメディカル医(東洋医)としての参加。

 そして、種々のことを自分達で決めるのではなく、第三者機関を加えての協議によっておこなわれることが大事であります。

 再度繰り返しになりますが、鍼灸を医療として行うには、正しい情報に基づいた行動をし、さらに見識を持って正しい場所で、正しい知識による勉強を行うことで、社会的にも高度な職業にならなければいけません。これが我々の業種が発展する唯一の方法です。」と教えて頂きました。

平成24年7月1日

 公益社団法人生体制御学会の設立に際しての、お礼を述べられるとともに設立から見える意義について教えていただきました。

 「生体制御学会が公益社団法人の認定を受けたことは、公益社団法人という名前だけの問題ではありません。過去、理想としたことが網羅され、その結果、日本中から注目され見守られるようになりました。その一つに、業団である愛知県鍼灸マッサージ師会、教育団体である中和医療専門学校・トライデントスポーツ医療看護専門学校が賛助会員となっていただいたことがあります。3団体が一致団結して行っている学術団体は日本中探してもどこにもありません。

 では、この公益社団法人生体制御学会は何を目標として作られたか、この学会の目的は、伝統医学を業とするわれわれをより高度に、より深く、より広く浩然の気を養えるような医療家をつくることであります。そして、医療家として鍼灸を用いて生体制御を行う事にあります。また、我々は権力のない医者ですが、人の身体を触って診断をせずに鍼を刺すことはありえません。権力がないということは病名をつけることができないだけであって、診断できないこととは意を異にします。このような心がけで行っているのは、この学会だけであり、それだけに責任もありますが、一人でも多くの人々が賛同され、正しい場所での勉強をともにしたいと思います。」と述べられました。

 次に、公益社団法人生体制御学会は、これから何を行うべきかについて示唆いただきました。

 「日本、韓国、中国の三か国の鍼灸の特徴がありますが、日本と世界と言ってもいい国々との最大の違いは何でしょうか?世界各国では鍼治療を行っている人が医師であるのに対して、日本は鍼灸師なのです。そのため、この学会が医療科学を確立することを目的し、研究して、それを基にした学問としなければなりません。そして、そこで得た知識で、どの分野でも対応できるような質をあげる努力をしなければ未来はありません。ありがたいことに公益社団法人生体制御学会は鍼灸師だけでの集まりではありません。その上、生体の内部環境を調えるこの治療法には、病人だけでなく、健康人をも治療できるすばらしい治療法であります。」と教えて頂き、現状を認識し、認識することによってそれを打破することこそが、医療家としての鍼灸師の必須条件であることが示されました。

平成24年3月4日

 黒野保三先生が「医道の日本」2012年1月号に投稿されました「鍼灸医学の行方」から、鍼灸界の現状を説明いただきました。

 「平成14年の小泉内閣はWHOから、日本の鍼灸が遅れていることから日本の鍼灸の質をあげることを要請されました。現況をみたところ鍼灸界ではどうにもならないと判断し、医学部で東洋医学教育をすることを法制化し、WHOへの返答としました。しかし、その結果、10年経過した今でもその成果はみられていません。このように、政府では実際のことを知らない人の間で話し合い、鍼灸師のためにやるわけではないので、あてになりません。それに対抗するには各々がレベルアップするしかなく、そのことをすべて理解して卒後教育を行っているのが本学会であります。」と教えていただきました。

 次に「サイエンスとしての鍼灸医学」のまとめとして系統立てて教えていただきました。

 「現状の鍼灸界はサイエンスとしての鍼灸が行われていないため、世界に通用しません。例をあげると鍼灸医学は三千年の歴史を有する伝統鍼灸医学であり、経穴、経絡を用いて未病治を行うといいます。言葉ではこのように書けますが実体は説明できません。では、サイエンスとしての鍼灸を行うためにはどうしたらよいのでしょうか?次のプロセスを知る必要があるでしょう。①総説がかけるような系統的な研究をし、②研究したものから学問をつくり、③医療家である我々はそれを医学として用い、④その中の東洋医学を用いて治療をおこなうわけです。我々は治療の現場での経験・現象・古典という価値をもっていますが、残念ながらサイエンスになっていないと言わなければなりませんが、この学会は鍼灸に関わるものを実証医学的に検証していくこと目的としております。

 私個人の研究ですが、合谷という経穴の研究は、その経穴の深さをみつけ、その部位を効率よく刺激する方法をさぐり、それによっておこる生理反応や免疫反応を証明し、鍼が刺さってから修復するまでの過程を系統的に研究してきました。これこそ鍼灸の研究として系統立てられた研究の代表例です。そして、このような過程を知っていて治療するのと知らないで治療するのでは、臨床の質が変わるのは当然であります。この学会はその主旨を達成するために着実に一歩一歩前進しており、多くの方からの支持をしていただけるようになりました。」と説明いただき、今後学会が目指す方向を示唆していただきました。

平成23年11月6日

 今年の大きな事業が終了し、本年の講習会も最後となりました。生体制御学会では、10年20年先を見据えており、黒野保三先生に今なすべきことについて示唆いただきました。

 「去年までは、統合医療、代替相補という言葉が世間をにぎわせました。その証拠に、昨年の3月には統合医療の研究に10億円もの国家予算がついたのは記憶に新しいところです。しかしながら、わずか半年の間にまったくその声を聞く事がなくなりました。これは、私から見れば当然と言わなければいけないことです。

 統合医療というのは近代医療と一緒になってディスカッションして行うものです。例えば、この患者さんに対しては鍼治療を先に行った方が良いなど、何を優先して行うかということが判断できるシステムが確立していないといけません。しかしながら、このディスカッションを行う土俵にあがれる鍼灸師がどれだけいるでしょうか?ディスカッションをするためには、医療に対する知識や認識が同等でないと無理であります。

 残念ながら、鍼灸界では、日本の中心の学術団体でさえ、首を傾げなければいけないことを発言しております。特に、日本の鍼灸を世界に発信しなければいけないということを宣言しております。では、日本の鍼灸とは何でしょうか?他の国と何が違うのでしょうか?

 医療がベースにあるならその基礎は共通であるため、日本の鍼灸が特別であるということはありえません。また、日本の鍼灸もまだまだ、検証しなければいけないことばかりです。総論を話すことは非常に耳あたりがよいですが、実体がなければ何も進まないのです。この五十年をみればそれはおのずと理解できると思います。

 また、先だって東京大学医学研究所を中心としたグループが医療崩壊の指数を提示しました。25年後にはきちんとした診療を受けられる患者は、現在の半分になるというのです。そして愛知県はその崩壊率が全国の4番目と予想されています。

 このような医療崩壊が予想されている中で、本来は鍼灸師が受け皿になるべきです。受け皿になるには、最低限でも医療の中で共通の土俵にのぼれる知識と認識を身に着けなければならず、そして着実な実績が必要であるのです。現在その場所は、この生体制御学会であるといっても過言ではなく、その証拠も提示できるのです。」と教えて頂き、今後の鍼灸界、鍼灸師としてあるべき姿を示して頂きました。

平成23年10月2日

 定例講習会の前に、8月28日に開催された第29回生体制御学会学術大会に対するお礼の言葉を述べられました。各方面から、この学術集会の演題、講演内容は基より、学会運営がすばらしいと評価されていることが報告されました。この学会のように、一般社会でもみられない秩序が正しく行えている団体はなく、学術団体としての歴史、業績、規模が評価され、愛知県の教育委員会から推奨されました。このような学会の会員は高度な資質を問われますが、この学会が目指している方向からすべての謎を解くことができます。そのことについて示唆いただきました。

 「この学会は医療人として治療を行う人の集まりです。これからの医療はチーム医療です。チーム医療の一員として、医療の水際を任されるべき鍼灸師にならなければいけません。残念ながら、現在の近代医療の水際は崩壊に向かっています。例をあげますと、大学の付属病院の閉鎖が決まったり、来年の医療改革によって法律が変わることによる勤務医と開業医の対立があげられます。これでは、この先どうなっていくか分からないし、明らかに利害関係に目線が向いています。国民の目線から考えれば、我々鍼灸師が、一致団結して、精度の高い治療を提供できれば、国民から信頼されることは間違いありません。それには、今信頼に足るための勉強をしなければなりません。

 生体制御学会で行われる鍼治療にはすべて基礎研究の裏付けがあります。つまり、生体制御学会では神経生理学を中心とした生理学を基として、それに付随する自律神経の機能や免疫学の基礎医学をベースにした治療法の構築を続けており、これを継承しています。これには、私が1956年に、黒野式全身調整基本穴という生体制御を行う治療の経穴を選定した時から、一貫して行っており、医師をはじめとしたどの分野の人にも共通した基盤にのっているので、信頼が置かれています。鍼灸治療は、ここ40~50年続いた、鍼麻酔によるブームで有頂天になっていた過去と違って、今は氷河期といってもいい時代に入っています。しかし、今後20年先を見据えて、本当に信頼される水際の医療を作れば、一般の人たちは自然と頼ってくれる時代がきます。今、着実な勉強をしておけば、その時に確かな位置で診療ができます。」と教えて頂き、この学会の価値もあらためて示されました。

平成23年7月3日

 今年度最初の講習会ですが、昨年までと一変したことがあります。それは、鍼灸医学、東洋医学、統合医療などと言う人がいなくなったことです。このことから鍼灸の立つ位置について示唆いただきました。

 「昨日、日野原重明先生のご講演を聞く機会がありました。以前からチーム医療の大切さを説き、これからのチーム医療は医師や看護師などの医療従事者だけではなく患者の家族を含めたすべての人々が関わることを説いております。2年前まではこのお話をされるときにチームの中に東洋医学という言葉や東洋医学に従事する医療関係者についても含まれていましたが、今回は、はずされていました。では何故はずされたのでしょう?この答えは誰かが東洋医学をはずしたのではなく、我々東洋医学に関与する者が努力しなかったことに他なりません。

 私は50年前に鍼麻酔がブームになったとき、中国との国交回復後初めて、中国から医師団を招聘し、また、東西両医学の協調を目的とした日本鍼灸医学会を立ち上げ、(社)全日本鍼灸学会を設立し、その地方会として愛知地方会で講習を行ってきました。そして、その事業が継続され、現在の生体制御学会があります。この学会の特徴は、必ず裏づけのある研究を基にすべてのことを行うということです。その研究結果には嘘偽りがありませんので、すべての実績が積み上げられていきます。つまり、この生体制御学会は言葉だけが独り歩きすることはありません。

 それに反して一般の世間では東洋医学の言葉だけが実体のないまま独り歩きをしております。そして、東洋医学に期待して過去にこの言葉を使っていた人たちは、その実体がないことから呆れられてしまったのではないでしょうか。このままでは、先はありません。正しい情報は必ず裏づけがあることを知らなければいけませんし、その発信を行う信頼ある学会にならなければなりません。 また、逆に多くの情報から正しいものと正しくないものを取捨選択する必要があります。それには、正しい場所での勉強しかありません。」と教えて頂きました。

 次に「サイエンスとしての鍼灸医学」のお話をいただき、この中でも、「筋膜上圧刺激」という鍼治療の方法を提唱され、論文として投稿され、アクセプトされ掲載されました。この一つのことを証明し、発信するにもその裏づけの研究や論文がたくさん必要であることが示めされ、この学会がもつ価値を示していただきました。

平成23年4月3日

 講義の最初に先立ち、3月11日に起きた東日本大震災の犠牲者に対して黙祷が行われました。そして次のような示唆を与えてくださいました。

 「災害に被災された方には、心からお悔やみを申し上げます。この度被災された方々の助け合いの精神や礼儀正しさが、各国から賞賛されたことは記憶に新しいと思います。日本人は日本の精神文化を持っており、ならず者が横行している時代において溜飲が下がる思いでした。一部の政府官僚も見習って頂き一歩一歩着実に行っていくことが、いままでインチキをしてきたことを正す唯一の方法であるということを改めて認識できたと思います。

 次にサイエンスと鍼灸医学についてでありますが、これも精神は一緒です。一歩一歩基礎から積み上げたものしか医学にならないことは明らかですが、特に鍼灸界ではそれは明らかです。まず最小限、このことが本当のことか嘘のことかを見極めることが大事であり、それを間違えたときにはすぐに認め謝らなければなりません。

 例えば、鍼灸医学は三千年の歴史を有しているとよく言います。本来医学は進歩発展していくはずのものですが、歴史を有しているからそのままでいいということは医学としてはありえません。また、鍼灸に歴史があっても、今治療を行っている先生が歴史がある治療を用いても、その先生自身にその歴史があるわけではありません。また、伝統鍼灸医学という言葉も聞きます。本来、伝統鍼灸医学はそのまま継承するのが良いわけではなく、現在にいかせるようにするのが伝統鍼灸医学であり、古典を鵜呑みにするわけにはいかないのです。また、鍼灸界で一人歩きしていて中身がない言葉には、未病治、経穴、経絡、五行説、癒しの治療など数え切れないほどあります。こういう中身がない論法では本当の鍼灸の発展はありません。そこで、鍼灸の科学科を行っていくのが学術団体である当学会なのです。

 ここで、もう一度何をやっていくのかを明らかにするために、研究・学問というものの定義を明らかにしておきたいと思います。研究とはよく調べて真理を究めること、実際に調べて証明すること、論ある仮説から論理的に導き出された結論を、事実の観察や実験の結果と照らし合わせてその仮説の真偽を確かめること、学問とは明らかになっていないものを研究し検証した結果を民衆に公開し認知された理論を多角的に検証し辞典に掲載されて体系化した理論をひとつの学問というのです。

 これに基づいて只今研究を継続しており、効果的な鍼治療の方法について、世界に向けて発信したばかりです。このような手続きをとった研究は必ず積みあがっていくものであります。」と教えていただき、今後のこの学会の指針を示されました。

平成23年3月6日

 前回の講習会からわずか1ヶ月です。たった1ヶ月の間に、またもいろいろな問題が出てきており、変化した社会情勢から鍼灸にまつわる環境を説明いただとともに示唆いただきました。

 「最近の医療界は非常に残念なことが多いです。特に抗癌剤の使用では、新しいものが出来たら新しいものを使用しようとしますが、それでは今まで使ってきた薬は何だったのでしょうか。このように、不安定要素が強いものが平然と使用されているわけです。また、このような分野で鍼灸診療に対する期待とともに頭から否定される事も多々あるわけです。残念ながら医療界も混乱している状態ですが、鍼灸界も輪をかけて混乱しているわけです。本来、鍼灸が担うのは、今やブームのように取り上げられている美容鍼灸やスポーツ鍼灸ではなく、医療の中の内科が主流にならなければなりません。そして、そのような鍼灸診療を行うには神経生理学に基づいた基礎がなければ成り立ちません。

 また、このことでも明らかになりましたように、医学研究というものは医療の水際に役立つことが大事です。言い換えれば、患者にいかにいい治療を提供できるかということです。私の研究はすべて臨床にあることから研究したものであるため、臨床の現場に戻ってくることが出来るわけです。

 このような研究を行う基には、やはり医療の一員として両足をふまえて患者に向き合うために基礎・臨床を行いますが、鍼灸師は権力をもたない内科医師だという自負があるからです。自負する以上はそれにみあった行動をとらなければなりません。最近になって医師の生涯研修の重要性が説かれ、患者に対する医療の安全安心の確保のために臨床の技量を保つことの再考がおこなわれております。鍼灸でも同様なはずですが、その場所が正しい場所でなければなりません。当学会はサイエンスとしての鍼灸診療を行うための基礎を着実に積み上げ、講習しております。ここから、発せられる情報には必ず根拠があることが認められ、他の鍼灸界でおこるような言葉だけの一人歩きは認められていません。

 再度のべますが、鍼灸師は権力がない内科医師です。そこでもう一つの問題があります。ということは死亡診断書が書けないとともに医療機器の使用にも制限があるわけです。そこで、鍼灸をおこなうものの感性の重要性が説かれるわけです。これも今までお話してきましたように、人間の感覚で特に重要な触覚の構造や機能が明らかになってきており、その機能を鍛えることが可能であることも示されています。この感性を磨いているものでないと鍼治療ができないのも一目瞭然であります。」と説かれ、サイエンスとしての鍼灸の価値を高めるための考え方や方向性を示して頂きました。 

平成23年2月6日

 本年初めての生体調整機構制御学会の定例講習会でしたが、前回の講習会からわずかな時間しか経過していませんが、その時代の変化と鍼灸に関与する変化について講義いただきました。

「この生体調整機構制御学会は全日本鍼灸学会愛知地方会の事業を継承するかたちで40年近く研修会を行い、どの地方会よりも充実していると自負しております。自負しているだけではなく、いろいろなところから評価されてきました。そして、行ってきたことが正しいということが、証明された事実がありますので紹介したいと思います。

 昨年の春から研究してきた内容が論文としてアクセプトされました。個人の論文ではありますが、その流れが生体調整機構制御学会まで広がってきています。日本の鍼灸はレベルが低いとみなされていますが、この論文が本当のサイエンスとして承認されましたので、世界に対して正しい日本の鍼灸を発信できることとなりました。

 研究内容を具体的に示しますと、今まで中国を中心とした鍼治療の方法の多くは、得気を得る強い刺激により研究し、得気があることが鍼治療の本質であるとしています。今回、発表した論文は、得気を得る必要は無く、必要な場所に必要な量の刺激をあたえることによって、自律神経機能に影響をあたえることができるということです。ここでのポイントは、自律神経に影響をあたえることができることを明らかに証明できたのがこの治療法であること、また、この方法を使えば研究的に明らかなプラセボを完成させることができるということです。その意味では、この論文が早くも世界的に注目されています。

 また、日本の医学界でも心電図の研究会という、確かな医学の研究会で、この論文を中心とした鍼治療と自律神経の関係についての講演の依頼があり、講演を行うことができました。こういう場所で行うことは本来異例であるはずです。このように正しいところで行われた研究は確実に評価されるということが実証されたわけです。この学会の価値は鍼灸界はもとより医学界で評価されているということにつきるのではないでしょうか。

 このような価値があがる中で、鍼灸師が鍼灸医師として自覚をきちんともち、正しい場所で正しい勉強をしていかないと、日本の政府がWHOに対面的に答えたように、医師に東洋医学を行わせ、専門職である鍼灸師を無視しようとしていることに、正当に対応できないことになります。

鍼灸が医療だといえば責任があります。そこには裏切るような行為はできないので、最低限でも知らなければいけないことを知らないということは通用しないので、その知らなければいけないことを知る意味でも正しい場所での勉強が必要になります。これからは言葉だけが先行する業界ではいけないことは明らかであります。」と教えていただきました。

 その後、実際の講演の一部をみせていただき、今後の方向性をあらためて示されました。

平成22年11月7日

 前回の講習会から、僅か1ヶ月の間に国は大変なことになっており、その影響による鍼灸界の状態について説明がありました。

 『学会というのは本来、政治の話が似合わないところですが、世界の中の日本、日本の中の医療、医療の中の鍼灸という観点から、政治は外すに外せないのです。医療の現場がないがしろになりそうな官僚政治の中では、医療行為も経営が主体となり、「医は仁術」ではなくなります。これでは社会のためにならないのは明らかです。

 本日の朝刊に偶然にも禅についての特集がありました。精神哲学の内の一つが禅であります。つまり人間性の確立がなければ、技術や知識があっても本来の医療には成り得ないはずです。ここでもう一度、医療人として鍼灸をおこなっているなら、まず鍼灸医師だという自覚をもたなければなりません。鍼灸医師だという自覚をもてば、本来の医療の原点である「病める人を治す」という、これだけのことに全力を注ぐために、自ら勉強し、知識や技術を身につけようとするはずです。また、新聞等などで医療の水際が危うくなっている現状においては、医療行為の約2割を看護師が実施できる範囲であるというアンケート結果が報道されました。本来なら、患者の身体の状態を見極め、医療行為の穴埋めができるのが鍼灸師であるはずなのです。しかしながら、現状では鍼灸師がその担い手になる気配はなく、その原因も鍼灸師自身の資質が上がっていないことに他なりません。

 東洋医学といわゆる近代医学の最も違う点は、中国医学の医者は患者の身体を診ているのに対してギリシャ医学の医者は患者の身体を診ていないことです。このことからも、患者にとってより良い医療の提供者はどちらであるのかということも想像できると思います。

自然科学の進歩にともなって、指の動きや指先の技術が脳でわかるようになってきました。鍼灸の技術の発展も証明できるようになってきたことから、より良い鍼灸師の教育は、やはり正しい場所での勉強により正しい知識に基づくことの必要性が如実に明らかになりました。』と教えて頂きました。

 続いて、指先の構造、特に感覚受容器の機能の構造から、感覚について講義頂き、その神経回路が訓練によって発達することを示され、その習得方法についてご教授頂きました。 

平成22年10月3日

 平成22年8月29日(日)に行われた第28回(社)生体調整機構制御学会学術集会における会員の協力に対して感謝の言葉を述べられました。そして、学術団体として着実に進歩してきていることを実感し、また、この学会が評価される結果となっていると報告されました。そして、最近の業界や学会のニュースなどからお話を頂きました。

 「30年の長年にわたって苦言を呈してきた、愛知県の行政団体がやっとすっきりとした形となり、行政団体、学術団体、教育団体がおのおのの立場で発展できるようになりました。会員が迷うことがないことが必要であり、そのためにはきちっとおこなっている団体の必要性があらためて浮き彫りとなりました。

 なぜこのようなことを言うかと言いますと、現在は日本列島には住民がいるが日本人がいないというほど、日本人としての精神文化が崩れ、勝手気ままなことを行い大変なことになっています。鍼灸治療においても、現象があるから良い、歴史があるから良いといいますが、本当でしょうか?長いこと騙されてきただけではないでしょうか?つまり、自分だけの解釈で行い、本当のことを認識しないままでいるために世相に流されています。

 この代表例と考えられるのが統合医療ではないでしょうか。統合医療はもちろん良いことですが、現在では総論しかなく各論がありません。対照的にチーム医療という言葉があります。これには実体があり、医師、看護師、理学療法士、薬剤師などの医療関係者が集まって、一人の患者さんにあたります。ここに、統合医療との違いがあり、鍼灸治療は近代医学と対等な理論を持ってテーブルにつけない場合がほとんどです。ここで、ほとんどと言ったのには、愛媛県の県立病院では若い鍼灸師を教育したのち、一緒に治療したりしている例もありますが、何より実際に実践した経験が私にはあるからです。名古屋第一生命ビルの中での近代医学の各科があり、ドクターグループと云われていました。その中に東洋医学科が同等の立場で診療を行ない、月に1回の全体の会議でディスカッションを行なってきました。その時から、近代医学とディスカッションできる同じ理論を持たない限り鍼灸診療は発展がないと感じていたからです。これが、30年前から行ってきていることなのです。

 このようなことを行えるようにするには、やはり正しい場所で勉強することで、偏った知識ではなく集学的な知識が必要です。このまま勝手気ままを続ければ将来は自ずと知れるのではないでしょうか。」と教えて頂きました。

 そして、今後の学会の方向性には、医療の水際でのことと実証医学的な両側面を兼ね備えることが大事であり、この学会はその理念に一番あっていることを説明していただきました。また、この方向性を実現するための刺鍼技能や治療原則の総論をお話いただき、次回から各論に入ることを示して頂きました。

平成22年7月4日

 6月11日~13日に行われた第59回(社)全日本鍼灸学会学術大会(大阪大会)から得た情報から、以下の示唆に富んだお話を頂きました。

 「鍼治療を行いますと、摩訶不思議な反応や良い現象に出会うことは多々ありますが、何故このような結果がでるのかは、ほとんど解っていないのが現状です。

 今回、大阪大会では「統合医療と鍼灸」というテーマで開催されました。ここでいう統合医療は何かというと、近代医学と近代医学以外の医療とで患者さんを治療していくことです。この言葉だけをとらえると何も問題がないように感じます。また、同様な言葉として全人的医療とか未病治という言葉が最近語られています。どの部分が同様なのかといいますと、これらの言葉は概念でしかないのです。概念というのは考え方であり、そのものに実体はありません。

 今回の大阪大会で、鍼灸医学・鍼灸治療が発展していくためには、鍼灸師だけが使っている言葉ではだめで、すべての医療に携わる人が理解できる共通の言葉となり、レベルも共通にならなければ、本当の意味での統合医療ができないという講演がありました。つまり、まるであるが如きの検討ではだめだということです。鍼灸師の中には「伝統や経験があるから」ということもよく聞きますが、現在の鍼灸界は特に学校を卒業してからの教育が不十分であるため、経験医学としての鍼灸治療自体があってもその個人の経験にはならないことも事実であります。

 そこで、先程の話を併せて考えますと、鍼灸医学・鍼灸治療というものが実体のある形で証明され、近代医学と鍼灸診療が共通の土俵で評価されなければならないということになります。この生体調整機構制御学会では、この証明を着々とおこなっています。実際に今年の大阪大会では、明治国際医療大学の演題数に続き、生体調整機構制御学会が2番目の演題数でありました。また、基礎研究にのっとって臨床を行うことが重要であることも示唆され、あるが如きの話しではなく、鍼の本当の有効性について一歩一歩証拠を示していくことが重要であると改めてわかりました。その集大成の一つとして、今年の8月に行われる第28回生体調整機構制御学会学術集会ではシンポジウムを予定しています。その中で、実際の証拠がここにあり、証拠に基づいて行う治療に価値があることを報告していきます。」

 また、再生医学のニュースなどのビデオを用いて、本当に証明していくということの基礎研究や学問というものを示し、鍼灸界の将来に示唆を与えて頂きました。

平成22年4月4日

 黒野保三先生より、次のような内容のお話を頂きました。

 この研修会は学術研修会です。本来であれば、鍼灸の制度や法律や鍼灸界の状況などという話は業者団体が行う仕事です。しかしながら、本当のことを情報として配信しないどころか、鍼灸界に対する認識や情熱が感じられないことから、正しい鍼灸に対する認識をもって頂きたい。

 何回もお話させて頂いておりますが、鍼灸の資格は医療を行う資格でしょうか?医療だと言うのなら、その認識と自覚を持たなければなりません。その自覚を持つには正しい情報、知識、技術そして仲間が必要となります。なぜ、そういうことを言うのかと申しますと、鍼灸が置かれている現在の立場に起因します。

 鍼灸に対しては良いニュースも流れました。擦る程度の刺激で神経細胞の再生が行われているということです。以前から報告していますように、鍼刺激の量は20グラムで行ったときの神経反応が持続的に働き、有効であるという証拠を提出してきました。こういう基礎実験がエビデンスになる訳です。

 世界に目を向けてみますと、現在、欧州ではドイツ、スウェーデン、デンマークで鍼灸の研究が活発になってきております。その中でもドイツでは340施設で11,630名の膝疾患患者を対象とした大規模研究を行い、鍼治療群と鍼治療をしない群との比較をしたところ、鍼治療は膝疾患に効果があることを証明しました。このように国を挙げて鍼治療の有効性を配信しています。

 一方、東アジアを見てみますと、中国、韓国、日本が中心となると思います。経穴の位置の標準化などを行っていますが、それを証明した訳ではなく、相談して決めただけで意味をなさないと思います。

 中国では国家戦略として中医学を世界に売り込もうとしています。

 三国中で一番良い方向で行っているのが韓国だと見受けられます。方向としては医者になった上で、その後に東洋医学を修めたものを統合医として医者の上位に位置付けしようとしております。そのくらい高度なものとみなしてきております。

 では、日本はどうでしょうか。WHOにおいても発言力が無いことから無視されているといっても過言ではないでしょう。

 現在日本では統合医療について国内でも大きな動きがあり、厚生労働省が統合医療プロジェクトチームを発足させ、研究を推進しようとしております。しかしながら、鍼灸の現状や今までの研究を知っている方は少なく、鍼灸に対しての期待感や実態をつかみきれていないまま検討されている感が見受けられます。このままでは、EBM(科学的根拠に基づいた医療)が確立されていない現状や、鍼灸学校が乱立していることによるレベルの低い鍼灸師を見て、「鍼灸はこんなものかと」と飽きられてしまう非常に危険な状態にあります。よって、この(社)生体調整機構制御学会などの実績を知って頂く必要があります。

 鍼灸界の現状を知り、世界に目を向け、情報を整理する。そして、真剣に鍼灸や鍼灸師のことを考え、一つになって良い方向に動いていかなければならないことを示唆されました。

平成22年3月7日

 前回の2月7日の定例講習会の時に紹介頂いた、2月6日に放映されたNHKのニュースである「統合医療の科学的検証、厚生労働省が鍼灸を含む統合医療を調査検討へ」の中で、2月26日までに結論を出すとの報告があり、このことについて2月25日に報告された事項を収集して頂き、最新の医療情報を含めてお話を頂きました。

 「看護士に新資格という記事が朝日新聞の2月18日に掲載されました。幅広く医療行為ができるようにするために高度な教育を受けた者が取得できるように検討中とのことですが、私は医療の中で医師に次いで鍼灸医師は各科にまたがって連携を取り合い、医療の先端で活躍できる職種であると思います。そこで、現在、参院予算委員会で統合医療に10億円の予算がついたり、NHKの朝の全国版のニュースで統合医療の科学的検証が放映されたりといったことから、今がこれを実現できる時期であると確信しています。

 次に2月25日の報告で、厚労省研究班班長の黒岩祐治先生、研究員の渡辺賢治先生が漢方・鍼灸医学のデータを収集しエビデンスの確立などを厚労相に提言をされました。その内容は、オーダーメイド医療の構築、国民への普及、組織の整備などの必要性が盛り込まれています。私達鍼灸医師は、医療機器を使用することなく、五感の四診法を用いて個々の体質・体調をみて治療をする、まさしくこれがオーダーメイド医療であり、最も得意とする分野であり専門家です。そして、これらを一般民衆に認知されるように普及させなければいけません。また、組織の整備とは、組織のひとつが愛知県の中ではまさしく私達(社)生体調整機構制御学会であり、経験則の科学的エビデンスの構築のためのデータ収集、良い人材の育成をすでに当会が行っています。したがいまして、統合医療プロジェクトチームができた場合、当会の37年の歴史の資料がありますので知ってもらい、当会の代表者がプロジュクトチームの組織の一員となるよう推し進めていきたいと思っています。」と提言事項に対し、わかりやすくご説明頂きました。

 医療の中で医師の次が鍼灸医師となるようにするには、今回の提言から、「愛知県認可である愛知県唯一の学術団体である当会のような確かな人格を有するところで高度な勉強をして鍼灸医師として力をつけ、良い仲間を増やして鍼灸界全体がレベルアップをすることで鍼灸医療が一般民衆に認識されることにより、それに伴い、法律を変えることができて成し遂げられるものであります」と述べられ、これから鍼灸界を支えていく若い人達への方向性と道筋を与えて下さいました。

平成22年2月7日

 何十年来と続いてきた状況が昨年から変わってきています。世界の情勢や日本の政治社会、医療界も変わろうとしております。そして、鍼灸界に当然変化がくる時代をふまえているというお話がありました。

 「これからここで話すことには、前提条件があります。この前提条件がなければ理解できないし、意味がないことになります。60年来言い続けてきたことに、鍼灸師は鍼灸医師であるという自覚を持ち、それを言えるだけの人間性や知識を持ち続けるために勉強をしなければなりません。鍼灸を医療として行うためには当然のことであると考えます。例えば、昨今、新聞上で医師の研修医がアルバイトで診療していることについて取り上げられました。研修医ですからもちろん医師免許もあるわけですが、これほど問題となるわけです。一方、鍼灸師は学生時代にアルバイトが本業かというぐらいで国家試験に受かるだけでよいとか、卒業したらすぐ開業するとかということをよく聞きます。つまり、これほどの格差があるわけです。これほど格差がある鍼灸師と医師が将来、統合医療を一緒にやっていこうとしたら現時点では無理といわれても当然となります。

 このような現状の中で、鍼灸関係の重鎮達の意見である昨年の大阪での鍼治療による死亡事故が鍼灸師でなかったから関係ないとか、厚生労働省が効果を検証するという対象が最初サプリメントから始めたから鍼灸には関係ないとか、いかにも他人事のような意見には本当に心を痛めます。

 昨日(2月6日)には統合医療の科学的検証として厚生労働省が鍼灸を含む統合医療を調査検討することがニュースで流れました。まさにずっといってきたようにきちんとした仕分けがなされることが現実となってきました。今日の話の最初で鍼灸を医療として行うために努力し勉強してきた人達に問題はありませんが、勉強もせず質の向上を望めないようでは先はありません。

 現状を踏まえ質の向上を行うには確かな場所で勉強し、客観的な認識に立って情報を正しく理解する必要があります。確かな場所で勉強するということは今までやった実績を国が認め修了証などを発行できることも、個々の実績の証拠となり、今後の鍼灸界では大きな力となることに間違いがありません。」と警鐘をならして頂きました。

 医学は再生医学など日進月歩で進化していますが、鍼灸は何千年続いたからいいとうことが横行しております。ここでは特にこれから鍼灸界を支えていく若い人達への指針を与えて頂きましたが、まだまだ伝え切れていない膨大な情報がありますので、次回に後半として引き続きご講演頂けることになりました。特に学生さんには大変な指針となりますので、次回の講演には参加するだけの価値あるお話しを頂けることも示して頂けました。

平成21年11月1日

 先月の講習会時に、医師不足が叫ばれる中、その医師の手助けをするために歯科医師、診療看護師を利用して行っていくことが提案されていることを説明しました。なぜそこに鍼灸師が入らず除外されているのでしょうか、という問題提議に対し、この1ヵ月間の情報収集から教えて頂きました。

 「医師不足で医療崩壊が叫ばれる中、国が認めた教育機関で教育を受け、国家試験に合格した鍼灸師をなぜ入れないかという疑問に対して、同じことに疑問を持ち実際に行動しているグループが確認されました。愛媛県立中央病院において僻地医療への医師不足に対して特に筋・骨格系の疾患に対しては医師とともに鍼灸師が共同して診療を行いその効果や、負担軽減など検討した結果、患者からも好評で十分な医療支援になりうる可能性が示されました。この試みや結果は、非常に価値があり、全国でもこの試みが広がることを願っています。

 しかしながら、前途は明るいわけではありません。例えば未病システム学会という学会があります。そこで、つい先日学術集会が行われていたわけですが、その抄録の中には全く鍼灸に関与した発表はありません。つい2・3年前までは抄録も薄く中身も少なかったのですが、一気に発展しています。結果からみると鍼灸界とは明らかにレベルの差ができてしまったということです。 学問がいかに大事か、つまり鍼灸の世界ではいまだに本当のことを言うと足をひっぱったりして、本来なら本当のことをいって議論をし、切磋琢磨して発展していくのに、何十年にわたってそのことを拒否してきた結果がみえてしまったわけです。鍼灸界は、権利と利益を守る業者団体と鍼灸師の養成を行う教育機関と学術、学問など研究を行い研究発表をする場や雑誌を発行する学術団体があまり機能していないのが現状です。WHOからの情報などは業団から聞こえてこないし、学校協会などで意思統一できない学校が乱立し、学会ということがいえない勉強会程度のものが学会と称して一般の鍼灸師を惑わせている場合も見受けられます。

 外からみて正当に評価されるためには、本当のものをみる力が必要となります。繰り返しの内容になりますが、同様な例として日本統合医療学会での認定対象者には、鍼灸師はその認定を受けるためには鍼灸師の免許を持っているだけではだめで、(社)全日本鍼灸学会の認定者のみ試験をうける資格があるのです。現状でこの条件にあてはまるのは日本中の鍼灸師の1パーセント程度です。つまり、その程度しか世間では評価されていないということになります。

 WHOが要求する鍼灸師のレベルは世界的には医師にしか鍼灸をさせない方向に来ている中で、日本の鍼灸師が認められるためには、相当勉強してレベルを上げない限り、見捨てられ将来はなくなる危険性があります。」

 以上のように鍼灸師の現状に対しての社会からの評価などから、鍼灸師への警鐘をならし、向かうべき道を示唆して頂きました。

平成21年10月4日

 9月6日に第27回(社)生体機構制御学会学術集会が開催されました。このことについて、会場で聴講されている先生方に御礼のお言葉を述べられました。そして、シンポジウムでの先生のお話の詳しい説明を現在の医療情勢を交えながらお話し頂きました。

 「医師不足から病院の閉鎖が取りざたされている中、『地域医療連携と医業経営』ということで医療コンサルタントによる病院経営が勧められています。時代の流れはこのような方向に変わりつつあり、このことは、患者のため、世の中のために尽くすのが医療であると教えられた私にとっては理解できないことであり、これから医療の本質が変わりつつあります。」と警笛を鳴らされました。

 次に日本の鍼灸師の現状と将来について、医療界で流れている問題について説明がありました。

 「医療界では医師不足を解消するために、看護師の中で臨床看護師の制度を作る方向に進んでいますが、歯科医師や獣医師もこのような方向に進みつつあること、介護福祉士を看護師の下の補助看護師とするような運動が進められています。

 介護福祉士でもこのように医療の一員として活動できるように進んでいる中で、私達鍼灸師はどうでしょうか。大学や短大、専門学校で3~4年間勉強をし、国家試験を取得して開業権や保険診療ができている鍼灸師が今の現状にあまんじていることはおかしいと思います。民主党が政権をとり、医療行政の改革を行うと提言していますが、鍼灸師の医療に対する位置づけをはっきりさせてほしいと思います。

 私達の(社)生体調整機構制御学会は鍼灸診療の発展のため、臨床現場での現象をひとつひとつ解明し、鍼灸医療の発展に貢献できるように進んでいきたいと思います。」と述べられ、私達に新しい指針を提言されました。

平成21年7月5日 

 4月5日に一般社団法人生体機構制御学会の設立総会が開催されました。そのことについて、現在の医療情勢を交えながらお話いただきました。

 「一般社団法人生体機構制御学会という学会は、組織の再編成により社団法人全日本鍼灸学会愛知地方会、社団法人全日本鍼灸学会東海支部の廃止により、継続的な研究と教育を目的として設立された組織です。しかしながら、鍼灸という名称が入っていないということを言われる方があります。本来なら鍼灸という言葉が入っているべきでしょうが、残念ながら現在の医療界では、入れることができないのです。

 なぜなら、その答えとして鍼灸は市民権を得ていないという一言に尽きます。昨年統合医療学会が設立され、認定を行なおうとした時、看護師や理学療法士などの国家資格がある職種はその職種であるだけでも受験資格が与えられました。しかし、鍼灸師はどうでしょうか。鍼灸師という国家資格だけでは認定の受験資格が与えられず、社団法人全日本鍼灸学会の認定を取得している者だけ統合医療学会の認定の受験資格が与えられたのです。その数は何万という鍼灸師がいる中でわずか600名程度となるわけです。つまり、鍼灸師の信用はその程度ということになります。

 国の医療政策により、医師不足が叫ばれ、特に地域医療が崩壊しつつある中で、本来なら種々の疾患を診療している鍼灸師が注目されるはずです。

 そこで、鍼灸は現実、臨床の現場に立ち、医療の水際にいます。この水際で行なっていることを着実に積み上げその後に集学的研究をし、50年100年先を見越した学会にしていきます。今こそ医の原点にかえって、一から積み上げたものこそ、これからの鍼灸の基礎になるからです。そして、そのように行った基礎なら堂々と他の分野に対しても協力できる学会となるはずです。そこに一般社団法人生体調整機構制御学会と名づけた理由があります。」と教えて頂きました。

 続いて再生医学について講義を頂きました。細胞死におけるアポトーシスと壊死との違いを説明頂きました。「アポトーシスのプログラム死といわれている機構は、身体の各部での期間が違うものの、すべての場所で行なわれています。この機構に対して、免疫細胞の関与が示されるなど、新しい研究結果が示されてきました。特に鍼灸と免疫機構の研究を行なってきた経験から、その内容から考えますとアポトーシスと鍼灸の関係も明らかに出来る可能性があります。

 再度繰り返しになりますが、このように一般社団法人生体調整機構制御学会では水際の臨床の現場で基礎研究の根拠も示し集学的に研究し協力していくことが、将来の目的であります。」と教えて頂きました。

平成21年4月5日

 平成21年4月5日に一般社団法人生体調整機構制御学会の設立記念公開講演が「生体調整機構と鍼灸診療との関わりについて」と題されて行われました。たくさんの出席者に対するお礼の後に講演に入られました。

 「近年の医療の発達はゲノムの解明などに代表されるように、ゆるぎない進歩の方向に進んでいますが、医療の現場や医療行政は生命科学の発展と比例しているとは思えません。特に医療の水際では、医療崩壊や、時には目や耳を覆いたくなるような報道が後を絶たず、今後の医療行政に不安を感じている人が増えてまいりました。そのような時代において医療崩壊の防止のためには医療連携が期待され、その一端を担うものとして統合医療・代替相補医療という名があがってきているのも事実です。

 さて、そこでヒトの成り立ちを考えてみますと、60兆といわれる細胞を持つわけですが、その一つ一つにも調節機構を持ち、それらが集まった組織でも調節機構を持ち、その上の器官でも調節機構を持ちヒトとなって生命活動するわけです。その調節機構がうまくいっているかいないかによって、健康か病気かをみることができると思います。しかしながら、そのメカニズムについて未だ集学的な研究が行われていないのが現状です。そこで、生体調整機構にかかわる過去、現在、未来についてみていこうと思います。

 鍼灸診療に来院されている患者さんをみてみますと、いろいろな症状で来院されます。そして長期に治療されると自分で変化を感じられるのみならず、第三者から評価されるようになります。その病態は器質的疾患(例えば肝臓病)のみならず、器質的疾患はないけれども症状があるという場合にも有効であることを示すことができました。このような現象があるということは、おのずからその根拠があるはずです。しかしながら、まだ鍼灸現象は未科学の部分があります。自然現象には必ず自然科学理論があるはずです。一方、自然現象がありながら現在の科学では解明しきれない、いわゆる自然科学では計れない基礎理論があります。つまり、①自然現象に対する仮説を立てる②自然現象に対する仮説を検証する実験計画を立てる③実験と結果を繰り返し正しい結果を出す④結果を基に考察し結論を見いだすという手続きを踏むことが必要になるわけです。

 その一つとして鍼灸治療の根本である経穴についてでも未だに説明すらできないのです。私が行った経穴の研究でやっと経穴の有効的な深さを示唆できているに過ぎないのです。そこで、鍼一本を刺入した時の生理学的反応、免疫学的反応や組織再生の仮説もやっと始まったといったところです。しかしながら、1980年から6回続けて学会発表した免疫の研究から肝臓や膵臓の臓器の変化や長寿に関与するデータなど明らかにすることができたことも事実です。また、心拍ゆらぎリアルタイム解析システムから自律神経に影響をあたえることができたことも事実の一つです。

 このような、すばらしい結果があるにも関わらず、研究が進まない要因がもう一つあります。つまり、鍼治療には修練がいるということです。どうしても若い鍼灸師で行うと刺鍼のばらつきがあります。それを工学部の先生と数値化したデータで解析しますと明らかに熟練者との差がでます。しかしながら、今までどのくらいの修練が必要かという議論さえできなかったことが、種々の分野で検討することによって推定できるレベルまでくることはすばらしいことであります。

 このような鍼灸医学を有効に使う手段がこれから必要となります。鍼灸と一般西洋医学のどちらかが必要ということではなく、すべては患者のためにどのような治療体系をとることが必要かということが大切になります。その時に、集学的な研究によって鍼灸の価値や必要性を認識させるほどの一つの基盤となるのがこの生体調整機構制御学会となります。」と発足にあたっての講演がなされました。

 非常にわかりやすい内容で参加された医療関係者のみならず、一般の患者さんからも鍼灸治療についての認識があがったとの声を頂くことができました。

平成21年3月1日

  (社)全日本鍼灸学会愛知地方会は、1972年に発足してから、全国の(社)全日本鍼灸学会の地方会の中心をなしてきました。この地方会が本部の組織再編によってなくなることが決まりました。そのことについてと、今後の展望についてお話を頂きました。

 「地方会がなくなるということで、(社)全日本鍼灸学会愛知地方会という名称は使うことができなくなりました。 そこで、百年を見据えた名前で、鍼灸治療が医療の一つであることを目標に一般社団法人生体調整機構制御学会という名称にすることにしました。これは本日行われる愛知地方会の常任幹事会で愛知地方会を解散し、新しい会の理事会への移行を予定しております。

 そこでもう一度、鍼灸治療を行うということはどういうことかと考えてみます。鍼灸治療は恒常性維持機構(ホメオスターシス)、免疫機構、自然治癒力機構を高めていく治療です。また精神的には癒しを行うという機構もあります。これらの機構を調整するのは何も鍼灸治療だけではありませんが、現在のところ鍼灸治療の得意分野であることも事実です。このような生体調整機構をあらゆる角度から研究していこうということが主旨です。当然、鍼灸という言葉をいれたらどうだという意見もいただきましたが、鍼灸だけを行っている人でしか分からない言葉での会は学会にはなりえず、勉強会になってしまいます。それでは、世間にアピールもできませんし、忘れ去られます。

 一つの例として2月26日の新聞に愛知医科大学に設置されている痛み学講座の存続の危機についてのニュースがありました。この痛み学講座は全国にはここだけにしかなく、最近においては慢性疼痛の疾患モデル動物の完成など期待された講座でした。また、そのような疾患に対する理学療法士の教育の場がなくなるという記事でした。講座がなくなる可能性があることは当然悲しいことですが、この新聞記事のなかでは理学療法士のことは書いてあっても鍼灸師のことは一言も書いてありません。慢性疼痛に関する治療は鍼灸の得意分野の一つであるはずですが、世間での認識はこの程度であるということなります。

 以上のことを考えてみても、世間から高度な位置付けをされるためには、高度な医療を提供しなければならなく、勉強は欠かすことができないということになります。また、外に向けて発信するためには、仲間以外のところにもアピールしていかなければならないということも明らかです。この生体調整機構制御学会には以上の意味が含まれています。オープンな学会ですので、是非とも参加していただきたいと思います。」と説明頂きました。

 続いて再生医学について講義を頂きました。再生の周期やクローンの原理について説明がありました。一見関係ないような再生医学は非常に鍼灸に関係があること、また直接関係がないと思われる多種にわたる情報も、正確に理解することが必要であると説かれました。この正確に理解することが柔軟な発想の基ともなることを教えて頂き、生体調整機構制御学会の価値を再度説かれました。

平成21年2月1日

 本年最初の講習会です。昨年の最後の講習会からわずか3ヶ月しかたっていませんが、この3ヶ月で世界が100年に一度という急変が起きました。このことから現況を説明いただきました。

 「大変な時代といわれますがある意味において喜ばしいこともあります。5000年前からならず者の世界がはじまり、特に第2次世界大戦後のアメリカではならず者が謳歌しており、それが現社会の不安定な状況を作り出したのは公然の事実であります。オバマ大統領の就任によって少しでもこの体勢の方向転換の可能性がみえたことは、非常に期待の持てるところです。日本人にはもともと持っている精神や心がありますので、それを中心に考えていくと世の中の状態もみえてきます。しかしながら、その観点から考えますと、現在の鍼灸の世界は不安定であります。

 鍼灸が二極化しており、鍼灸の免許が単なる商売の免許になっているという一面とそうではなく高度な医療として行っていくという一面があります。当然、高度な医療となるには高度な医学の裏づけが必要ですが、古典文学を医学だと錯覚してきた部分を否定できないでいます。これでは、世界の鍼灸が発展してきている中で、日本の鍼灸が取り残される大きな危険を含んでいます。この現状に対して愛知地方会ではすでに動き始めています。

 昨年の12月8日に生体調整機構制御学会の一般社団法人の認可がおりました。そして昨日、臨時役員総会が行われ、今後の方針を話し合いました。まず、この学会がなぜできあがったのかということですが、地方会をなくして大きな枠組みを作るということでしたが、それに伴って地方会がなくなることから、卒後の勉強の場の存続を求める声があがりました。そこで社会から認められる学会を作るべきという認識で学会設立を行いました。 この学会は完全にオープンな学会で誰でも参加できます。そのことには以下の理由もあります。

 この生体の調整機構は鍼灸の独壇場でした。しかしながら、この機構を制御するのは何も鍼灸のみではなく、いろいろな分野において可能なことがわかってきており、そこでどの方法で行ったらどこが鍼灸治療より良いか悪いかを検討できます。そのことによって医療に良い影響を与えるのみでなく、鍼灸の治療仮説の発展も期待できます。そのような学会の設立に対してはいろいろな大学の諸先生方の同意を得、たくさんの先生方に顧問、相談役や監事などをお引き受け頂きました。

 これは、いままでの愛知地方会の発展的改称であり、この一般社団法人生体調整機構制御学会が発展することが望ましいと考えます。この学会ではいままで鍼灸治療が医療でないと言われてきたものを医療にしていくということが責務であります。

 では具体的に何を行うかという時期にもう一度研究や勉強の方法をみてみましょう。鍼灸現象は未科学と言われています。しかしながら、自然現象には自然科学理論で説明できるもの、自然科学で計れない基礎理論によるものがあるためにその自然現象自体が正しいものか正しくないものかに大別しなければいけません。ですから、実際に鍼灸の臨床の現場で得られる膨大な現象を捉え集めることで、自然現象に対する仮説を立て、自然現象に対する仮説を検証する実験計画を立て、実験と結果を繰り返し正しい結果を出し、そこから考察する手続きをするのが研究であり、学会としての本質であります。」と教えていただきました。

 また、次回から各論に入る「再生医学について」を理解する基礎である、鍼の治療仮説について説明頂きました。

平成21年2月12日

 先月のこの会で、未病システム学会から鍼灸がはずされていることを説明していただきました。そして、その現況から現在おかれている状態を説いていただきました。

 「現在、未病システム学会が開催されていますが、そのポスターや講演要旨を見てみますといろいろなことが書いてありますが、これはもともと鍼灸師であればすべて知っていることであります。その専門領域である鍼灸師がその専門ではずされているという現実を認識しなければなりません。自分達の職種が他からどのように評価されているかということを知っていなければなりません。

 最近、医師不足が言われていますが、本当に数が足らないのではなく、偏っていることが明らかになっています。医療過誤が起こるのは人が少ないことが原因とされていますが、基本的にはチェック機構が崩壊してきているからです。つまり医局制度の崩壊による師弟関係の崩壊が原因といえるのではないでしょうか。これは医師だけの問題ではなく、鍼灸師の方がもっと問題となっています。鍼灸には明確な基準がありません。ということは自分のレベルによってしか自分を評価できないということです。体を診るレベルに達していなければ治療して治っても偶然の結果論だということです。体が診えるか診えないかが第一であり、知識が増えるだけでは、現場の臨床では役に立たないということです。私は43年前に想定したのが、医療崩壊も想定できましたので、地域医療の一端を担うのが鍼灸師になるべきだろうという思いで、鍼灸師の勉強会としての地方会を立ち上げたのです。しかし、現状の鍼灸師のレベルは理想とはかけ離れ、世間から見放される現状になっています。

 やはり、自分のレベルだけで判断することは困難であり、師匠と師弟関係の人間関係を持つことによって高いレベルからチェックしてもらえ、常に緊張感を持つことから成長する、というあたりまえのことが普通にならなければなりません。

 レベルが違えば同じ情報をもらっても正しいことがみえません。分かりやすい話をすればプロゴルファーでもプロと名はついていてもその中での差は歴然で、永久シードの資格を持つものはわずか7人しかいません。また、世界的な話をすれば、サブプライム問題を解決するために自国(アメリカ)で処理する問題を、言いがかりをつけて世界からお金を集めるということを平気で行っているということもあげられます。

 つまり、新聞などの情報もわれわれが勉強していることも、すべて真実の探求が目標なのです。その前提として自分のレベルを上げるためのチェックが必要ということを再度申し上げます。」と説かれました。

 次に、再生医学の基礎を話して頂きました。「特に鍼灸の研究には解剖・生理といった基礎医学が重要であり、臨床の現場でどう活かせるかということが重要です。また、知識というのはとどまってはいないので、過去の知識と現在の知識を如何に鍼灸の理論に当てはめることができるかという視点が重要になります。今回は特に表皮と再生医学について説明します。結果から申しますと、表皮は今まで重要視されていませんでしたが、表皮で感覚の受容が行える事実が証明されたことで、鍼灸の治療メカニズム解明に大きく寄与できる可能性がでてきました。このような生体の感覚に対し、刺激量の正しい質と量をコントロールできることが重要であります。」と教えて頂き、正しい情報の捉え方とその活かし方の指針を与えて頂きました。

平成20年10月5日

 今年の7月まで脳科学と鍼灸医学についてお話を頂きましたが、まだ太極療法について理解をしていない人が多くいるため、このことについてお話を頂ました。

 「私は過去に病理学的徴候がなくても症状が存在するいわゆる無徴候有訴群患者に対する鍼治療の有効性を報告し、不定愁訴、糖尿病をはじめとする様々な疾患に対する鍼治療の臨床研究を報告しました。その間、基礎的研究として日本で初めて鍼治療による免疫機能の変動を1980年から6回にわたり論文報告を行いました。また、慢性肝機能障害に対する基礎的研究や臨床的研究を行い、鍼治療が肝細胞の再生に有効であることを報告しました。また、マウスの一生(2年間)を週に2回の鍼治療を行い、組織学的所見から鍼治療が老化防止に有効であることを報告しました。

これらのことは鍼治療が生体の恒常性維持機構、免疫系維持機構、自然治癒機構を活性化させる証拠をあらわしたものです。

 近年の脳科学の進歩から私は、上記の恒常性維持機構、免疫系維持機構、自然治癒機構を制御している上位の制御系として統合的制御機構の存在を想定しており、鍼治療はこの統合的制御機構を活性化させる最善の手段であると考えています。そして統合的制御機構の活性化を目的としたのが太極療法(生体機構制御療法)であると思います。」と解説されました。

次に、平成20年9月6日に朝日新聞の記事で柔道整復師の養成学校で無資格の教員が教えている実態が掲載されたことをふまえ、鍼灸業界も襟を正して進まないと大変なことになると述べられ、その例を以下のように述べられました。

 「日本心療内科学会に入会するための業種選択に看護師や柔整師はありますが、私達の鍼灸師という項目がないという事実があります。このことはこの学会だけではなく、日本糖尿病学会や心身医学会でも何か資格をとろうとしても鍼灸師だけがはずされています。鍼灸師の養成学校の定員割れで経営できないといった実態などから社会通念として鍼灸師は資格所有者ではないという証ではないでしょうか。

 日本医師会が総合医の認定を開始し、地域医療に貢献する幅広い医師を総合医としていますが、これは私達鍼灸師がすでに行っていることですので、このことに対して手を挙げたいですが、現在の実態からみて手を挙げられない状態なので残念です。今後は堂々と手を挙げられるように努力して頂きたいと思います。」と述べられ、最近の実態を教えて頂きました。

また、ラットの脳細胞の信号によってロボットを動かし人間の代わりをするという研究の報告やiPS細胞の報告から、鍼灸治療に応用して役立てることができる旨の説明を頂きました。

最後に今回からお話を頂く「再生医学について」を講義して頂きました。

 「今まで、鍼灸治療の刺激の入力系は真皮が関係しているというのが一般的でした。しかし、iPS細胞の存在が明らかとなったことから表皮がクローズアップされ、再生医学とはまさしくこの部分であり、この部分に与える鍼刺激の質と量が問題になる。」というお話を頂き、鍼刺激の入力系の新たな考え方を教えて頂きました。

平成20年7月6日

 3ヶ月ぶりになりますが、その間に(社)全日本鍼灸学会学術大会が京都で開催されました。そのことからいろいろ教えて頂きました。

 「学会において愛知地方会は他の地方会を圧倒するだけの演題があり、学会の記録として撮られた映像にはその記録が残されています。ホームページもしかりですが、このような記録が残され継続されている地方会は他にないことは周知の事実です。その価値観がクローズアップされる時がきていることも自覚していただきたいと思います。

 この価値観が必要となってくる裏づけのニュースとして6月1日の朝日新聞に、柔道整復師(接骨)の不正請求についての報道がありました。内容は1回の治療で3~4箇所の部位の施術に対して請求を行うということです。また、世の中では鍼灸接骨院というように鍼灸と接骨が同等にみられているという事実も、専門誌が鍼灸接骨院という言葉を使うところからもみてとれます。このような現実に対して鍼灸だけが良いということはなく、カルチャーセンター並の学校が乱立し、鍼灸師の質の低下が懸念される中で、価値ある鍼灸師となるには確固たる実績とともに継続して行う勉強の必要性があります。その点においては愛知地方会の功績は顕著であり、今後ともその必要性については疑う余地はありません。

 しかしながら鍼灸が本当の意味で発展するようになるには、鍼灸の専門の大学が中心となっていかなければいけないはずですが、現実にはそうはなっていません。国は医学部での東洋医学の講義時間などの充実をはかり、統合医療の超党派の議員連盟を作るなど東洋医学に期待している観はみてとれるのですが、鍼灸師に期待している観はみてとれません。このような情報を皆さんにお伝えして責任を持って行っていかなければ専門医としても価値がなくなることを自覚して頂きたいと思います。」と説かれました。

 続いて、「脳科学と鍼灸医学」について講義して頂きました。

 「今回が脳科学と鍼灸医学については最後になります。とにかく質と量ともに良い鍼刺激をすることが脳の記憶について大事なことであり、いい記憶でなければ良い治療効果は望めません。臨床上の良い効果を継続させるためにも、再度述べますが勉強してその価値を知り研鑚することしかありません。

 次回からは再生医学と鍼灸の関わりについて講義したいと思います。」と述べられ数十年に亘っての鍼治療仮説が医学知識の発展により証明されてくることがあらわされました。

平成20年4月6日

 3月20日に(社)全日本鍼灸学会評議員会において地方会を廃止するという組織再編成の提案がなされ、評議員会で承認されました。これまでの経緯から現状の説明がありました。

 「(社)全日本鍼灸学会の定款は私が当時の文部省と交渉し、会の将来をにらんで作ったものであります。学会というものは、会員が研究し、その研究や発表の場であり、その発表した内容を論文として残すのが本来の姿です。そのことから考えますと、地方会は必要ないということでありますが、特にその当時においては他の医学会と違って卒後教育をして会員の資質を向上することが急務でした。そのため文部省との折衝を繰り返し、支部の存在と地方からの意見を反映させるための代議員制度となる評議員会の必要性を認めていただき、定款ができあがった経緯があります。

 現在、文部科学省から(社)全日本鍼灸学会に対し公益法人としていくために、地方会のお金の流れなどをすべて把握する義務を負うことからその責務を履行することが不可能である理由によって支部の再編成を強制するに至っております。しかしながら、このことが本当に会員のためになることでしょうか?疑問が残ります。

 愛知地方会では正しいことは正しい、間違ったことは間違ったこととして整理することを前提としております。そして、どこに行っても自分の意見を言えるようにしております。代表としていく人の意見は会の総意であり、会の看板を背負っております。しかしながら、意見が通らなかったといって大意にそむくことでは大儀にならないとも認識して行動しております。愛知地方会では勉強の必要性を認識しておりますので、このような場を今後とも継続していくつもりです。

このようなご時勢において、現在大きな問題が起きております。超党派ならびに民主党において統合医療の普及や推進を目的とした議員連盟の会ができております。しかし、統合医療を本当の意味で理解して頂き、歴史的事実を認識した上で行って頂かないと、とんでもないことになります。国の予算を使って行う以上、医療財源を効率よく運用できるようにする、国民が本当にかかりたい医療にかかれるようにすることは最低限のことですが、日本の実情も考慮しなければ困ります。どうしても統合医療というとアメリカをみて行う場合が多いと思われますが、根本的にアメリカと日本では資格制度が違います。統合医療にはハーブ、アロマやアーユルベーダと鍼灸、按摩や柔道整復が含まれますが、国が養成機関を設けて国家試験を行っているものとそうでないものとでは同じ土俵で考えることは不可能なことであります。鍼灸医学には科学的根拠があります。

 しかしながら、鍼灸界がこの現実を受けて、それだけの違いがあることをアピールした時に鍼灸師のレベルが上がっていなかったら、統合医療の中での地位もなくなります。長年、愛知地方会として行ってきた勉強の意味と価値を理解し、今後どのような形となろうとも、勉強しない者が良くなるということはありえません。」と再度説かれ、指針を与えて下さいました。

平成20年3月2日

 この1ヶ月で、医学分野の発展のニュースがいろいろ入ってきました。このわかってきたニュースが、非常に鍼灸と関わっていることを中心に今後あるべきことを教えていただきました。

 「代表例のニュースとしてはミクロの分子レベルの進化が有利・不利だけの自然淘汰のメカニズムだけで働くのではなく、過去に分子進化の中で中立説が唱えられていました。そして、この中立説の先見性が現在、浮かび上がってきました。この中立性が鍼灸に非常に関係がある分かりやすい例として、鍼灸治療での血圧の治療があげられるのではないでしょうか。単純な数学的な原理から考えると高血圧に対して鍼灸治療をすると血圧値が下降することは経験上でも研究でも証明されつつありますが、この理論からすると低血圧に対して鍼治療をするともっと血圧が下降するということになります。しかし、現実は違います。この例は中立性、言い換えれば身体のリセットをするのが鍼灸治療だと考えていることからきています。

 また、鍼治療は体にいいですよと言いますが、まだ完全になぜ治るかを説明することはできません。私の研究も現場の現象を科学的に証明したいその一心のみで行っておりますが、一人の力では限界があります。そういう私達にとって新聞の記事一つでも価値がわかり、応用していくことこそが未科学の医学として行っている鍼灸治療を先端医療にしていく第一歩になると確信しており、みなさんに情報を提供する根拠になっているのです。

 もう一つの話題として、鍼灸の一番得意なものは予防であります。今年度からは企業でも予防に焦点をあてた対策が義務づけられるようになります。しかしながら鍼灸が一般的には普及してきたと言われますが、本当の鍼灸の価値は一般の人々には浸透していません。本来ならば「未病治」といわれるように鍼灸の得意な分野だから、鍼灸師に任せるというようにならなければならないということです。この点においても、鍼灸を行う者の質が問われ、勉強して対応できる人数が増え、全体のレベルが上がらない限り将来はありません。」と説かれました。

 次に、前回の講義の続きである脳科学における海馬での記憶について説明していただきました。

 「鍼灸治療のいい記憶を残すには、刺激を行う場所を正確にみつけ、適切な量と質の刺激を患者の状態によって使い分けるだけの技術が必要であります。技術の良し悪しもデジタル的に表現する研究もしてきました。発展してくる治療においても行う人の技術が伴わなければ、先程述べました先端医学としての進歩もありません。」と教えて頂き、生体反応を理解した治療を行わなければならない必要性を、あらためて説かれました。

平成20年2月3日

 本年最初の講習会です。前回の講習会からたった3ヶ月しかたっていませんが、一年も二年もたった気がするのはなぜでしょうか?その答えと共に現在の医療界、鍼灸界について教えていただきました。「この3ヶ月ですごい勢いで世の中が変化し、特に分子生物学分野で歴史的進歩をしたことは周知のことだと思います。京大における万能細胞の作成の成功がはずみとなり、それに国家が新しい予算をつけて新しい発見が次々と行われる事が期待され、すばらしい世界になることを願っています。もちろんこの通りにいけば問題はありませんが、西洋医学では進歩すればするほど抑制のリスクがかかります。特に倫理的な問題があり、現在の最先端となった自己細胞からの再生においても再生能力の開発によって倫理的に問題となるような組織や器官へ分化できることがあげられます。しかし、行って良いこと、悪いことの敷居までも討論できるほど、ここ数ヶ月の発展には目を見張ります。

 現在のこの生命科学が急速に発展したのは、ほんの50年のことです。解剖学・生理学・病理学など現象の解析が西洋医学の基礎をなしています。鍼灸も臨床での現象を経験的に積み上げた療法です。したがいまして、現象を正しく解析して新たな治療理論を体系化していかなければなりません。この治療理論の体系化には先程お話した遺伝子や分子生物学とは一見かけ離れているように思えますが、実はそうではありません。一つの例をあげますと生活環境を変えると今まで調子良かった人がいきなり調子が悪くなったりするという例は多数あります。この現象の裏にはたった一つのDNAが関与して影響を与えていることがわかりました。鍼灸の効果の一つには体質を改善するといわれていることがあります。まさにこれは体の内部環境を整えてDNAにさえ影響を与えるということも示唆されます。

 以上のように考えますと現時点では鍼治療はまだ未科学の医学だといえます。しかしながら、鍼治療は先端医学ともまた、付加価値の高い医療ともいえます。西洋医学で抑制がかかるようなリスクも鍼治療は起こさず、付加価値の高い技能で行えばさらにリスクはなくなります。これだけ可能性が高い治療を行うには、とにかく鍼灸師のレベルが問われます。いい仲間を増やして一般の人から安心されることの必要性はいうまでもありません。」と説かれました。

 次に、前回の講義の続きである脳科学における海馬での記憶について説明して頂きました。特に短期記憶、長期記憶について教えて頂き、良い刺激の長期増強や悪い刺激でのストレス反応について示され、本当の意味で刺激を与えた時の生体反応を理解して治療を行わなければならない必要性を、あらためて説かれました。

平成19年11月4日

 鍼灸界を本当の意味で発展させることができる可能性は、現時点においては鍼灸を業とするもの個人が精度の高い鍼灸治療を行うしかないことは明らかであることについて、まず教えて頂きました。

 「色々な考え方、また意見などについて理解できないということが、その人としてのレベルの違いであることがあります。例えば本を読んで知っていたりすると、いかにも自分のレベルが高いと錯覚することがあります。また、レベルの高い人間を知っているというだけで自分がレベルが高いと勘違いしていることがあります。レベルが出来上がるということは知っているだけでは形成されず、それを実践して足跡を残してこそレベルが出来上がるはずです。

 ここは学会ですから分かりやすい話をしますと、研究や実験を行ったものを発表して論文を書くところまで行い、他の人がまたその論文を引用したものが、その人が行った実績となるわけです。そういうことの積み重ねを行う行動しかレベルをあげる方法はありません。」と教えて頂きました。

 また、鍼灸が本来行わなければならないニュースも取り上げて教えて頂きました。その内容としては「病気の予知にカウンセリングが必要なことが新聞にあげられていましたが、鍼灸診療の得意分野である1対1の治療方式では当然のことであるが十分行われていません。また、子供の突発性難聴が話題になっていますが、鍼治療では適切な時期(発症から1週間程度)に治療すれば治癒率が高く長期間の治療の必要がないことが特徴です。

 さらに、DNAなどの遺伝情報は転写の際に必要な部分だけ書き込まれることがあげられます。その中でもこの遺伝情報が環境によって変化するということが証明されてから、いい環境づくりが必要であることがいわれております。鍼治療がいい環境を作れるのなら、いわゆる糖尿病などの親からの遺伝情報が病気の発症に関与する病気でも、いい状態に保てるはずです。

 しかし、残念ながらまだ鍼治療は未科学の治療と言わざるをえませんが、鍼治療を行う際の厳密な量・質・場所を明らかにして、現在の未科学なアナログ治療から確実性のあるデジタル治療にすれば医療としての価値があがります。しかし、先程の話に戻りますが鍼灸師個人のレベルがあがっていないと医療の一員としては迎え入れられることがなくなるはずです。」と説かれました。

 次に、前回の講義の続きである脳科学における神経伝達について説明して頂きました。特にシナプスでの伝達は情報を伝えるのみでなく、情報の選別を行っていることです。ここでもよい鍼治療は神経での環境を整える可能性を示され、本当の意味で刺激を与えた時の生体反応を理解して治療を行わなければならない必要性を、あらためて説かれました。

平成19年10月7日

 9月2日に開催された(社)全日本鍼灸学会第25回東海支部学術集会と9月30日に開催された(財)東洋医学研究財団設立30周年記念講演会・祝賀会が、愛知地方会開催の定例講習会に出席している会員の先生方が実行委員となって協力されたことによって盛会裡に終了できたことに関し、お礼を述べられました。

 その中で特に東洋医学研究財団の祝賀会で祝辞の挨拶をされたひとりの元名古屋市立大学大波多廣文事務局長について以下のように述べられました。

 「昭和50年に日本鍼灸学会を東西両医学の協調を目指す目的により日本鍼灸医学会に発展的改称して事務局を大阪から名古屋に移転させた時、名古屋市立大学に事務局を設置しようと思っていました。そこへ、当時名古屋市立大学の事務局長であった大波多さんが事務局を置けるように一緒に働きかけましょうと言われ、名古屋市議会にこのことを提案して大演説をされ、光熱費などの予算も出て賛成で決議されました。このことから、名市大を使用できるようになり、現在でも愛知地方会の定例講習会や鍼灸関連の学会が開催できるようになったのも、このような経緯があったからです。

 このように先人の人達が行動して頂いたお蔭で現在の鍼灸の発展があるという感謝と謙虚な気持ちを持ち続けないと人間性は培われないと思います。」と言われました。

 

 次に7月から現在までの医療情報について、以下の新聞に掲載された記事について説明されました。

○7月 8日:腹部大動脈瘤の治療にステントグラフト、開腹せず患者の負担減らす(朝日新聞)

○7月12日:肺がん発見しやすい遺伝子(朝日新聞)

○7月29日:子供もメタボ?内臓脂肪がたまっていろんな病気(朝日新聞)

○8月26日:がんの患部狙い撃ち(朝日新聞)

○9月 2日:超音波、骨折に効果(朝日新聞)

○9月 2日:糖尿病は万病招く、がんで死亡は3.1倍(朝日新聞)

○9月 3日:念ずれば通ず?脳情報で機械制御、研究進む(朝日新聞)

○9月21日:東洋医学研究財団設立30周年記念講演会(中日新聞)

○9月22日:酒かす成分、メタボ防ぐ(中日新聞)

○9月23日:脂肪肝、飲まない人も注意(中日新聞)

 

 次に脳の伝達システムについてスライドを使用して講演がありました。

 「鍼灸は未科学の治療法でありますが、未科学であっても先端の治療であり、脳科学が解明されれば鍼灸の治療メカニズムが解明されると信じています。」と述べられました。

 また、「9月30日の東洋医学研究財団での講演会で、私は鍼灸治療はワクチン的要素になるかもしれないと述べましたが、10月3日に免疫を活性化させたところ、がんのマウスが60%ほど改善した結果から、免疫を活性化するワクチンを開発する研究が報道されました。これは外からワクチンを投与するのに対し、私は鍼を行って人間の内部にワクチン的要素を作り出そうとしています。」と述べられました。

 そして、「鍼を行うと身体の中にその刺激が48~72時間ほど続くことを私は基礎実験の結果から提唱していますが、これもひとつの記憶なのです。その記憶が脳のどこで行っているかが問題になるし、シナプスの伝達もひとつの記憶であるのです。」と、脳科学と鍼灸治療との関連を述べられました。

平成19年7月1日

 6月10日には(社)全日本鍼灸学会学術大会が終わりました。愛知地方会からは18題の演題が発表され、愛知地方会の活動の確かさが立証されてきました。しかしながら、本日は本来「脳科学と鍼灸医学Ⅶ」として講演の予定でありましたが、会員に対し愛知地方会にまつわる種々の話題に対する詳細な説明の必要性が出てきたことで話されました。

 「愛知地方会は愛知地方会が発足する前の勉強会からあわせると、40年以上の歴史があり、その間に培われた文化や歴史があります。鍼灸医学というのは東洋思想に基づく医療だというなら、その精神文化にのっとって行うべきであることは論を待ちません。愛知地方会は少なくともこの考えを持ち正しいことは正しいこととして真似し、悪いことは悪いことだということの区別をし、すべての物事を整理整頓しています。

 残念なことですが、岐阜地方会の東海支部脱退についても述べなければなりません。結論からいうとどんな議論をされようとも愛知地方会に非はありません。発端は東海支部学術集会の開催における不手際を単に指摘したことのみです。先程述べたように、愛知地方会は会員の利益を考え、誰に対してもまたどのような場所においても正しいことは正しい、悪いことは悪いということを言うように行動してきております。結果として感情論になった話にはのるわけにいきません。これでは正確な判断どころか無理の上塗りを重ねていかなければならなくなります。

 東洋の精神文化の根本を基準にして解析すればすべて理解できるはずです。今回は以前に著した文書をもう一度みていただき今後の指標の参考にして頂きたいと思います。」と述べられ我々に指針を与えて下さいました。

 以下は文書の内容です。

 

「真実を葬らず直視せよ」

 トラブルが起きたとき一番被害を被るのは真実である。真実を曲げて正当化したり、自己主張をすることにより一層トラブルを大きくする。真実を曲げたり、一瞬の気の緩みが、残酷にも築き上げてきた信用・信頼を失う。人は社会人としての責任も自覚せねばならない。社会人として責任ある行動をするには何が必要なのか。それは、社会常識・モラル・法律等々を守ることは云うまでもないが「情報分析を磨け」と云いたい。本物の情報を見極める力が無ければ、無責任な情報に踊らされるだけである。情報は毒にも特効薬にもなることを肝に銘じるべきで、今回の問題をどうするのかを判断するのは自分自身である。リスク判断の結果に対する責任は当然自分であり、確かな情報は自信と責任ある行動に繋がる。科学は先人の業績を紐解くことによって発展する。

平成19年4月1日

 わずか一ヶ月の間にはたくさんの情報が入ってきました。特に現在では社会全体が既存の感覚や知識ではこれからの発展はないことがわかってきました。特に鍼灸界では既存の感覚や知識にとらわれている感が強く、そういった現状では、これからの時代の変化の中では進化していけないという物事の根底に関わる内容を具体例をあげて説明していただきました。

 「自然治癒を科学するという内容が新聞に掲載されました。従来から鍼灸治療は自然治癒力を高めるといわれてきました。例えば今インフルエンザがたくさん発症してきていますが、対策として手洗い、うがい、ワクチンだけではおさまらないことが多々出現しています。元来西洋医学的には風邪は感染すると表現されてきましたが、東洋医学的には風邪をひくという表現が用いられてきました。西洋的には感染によってうつると言っているのに対して東洋的には自ら風邪を引き込む、つまり自らの体が中心に防御していくことで対処するということを説明しているのです。このように感染する点だけをとらえていると本質を見間違える可能性があるということです。

 この発想の転換や東洋の思想については、もう一つ情報がでてきました。既成概念にとらわれていては発展がないという事例ですが、現在の既成概念を作らされた社会情勢に西洋思想を支持する明治維新の政策がありました。文明開化の名の下に確かに経済的には世界に類をみない発展をみましたが、別の側面として東洋の精神文化を壊しました。これらの精神文化は高い次元で物事を発展させるためには必要であり、この哲学の重要性が身につくと独創性を作り上げることが出来きます。こういう観点で物事を行うと従来の既成概念から脱却できる大きな可能性になるであろうということです。

 また、現実として鍼灸界に厳しい状況も出てきています。従来からこの講義などで説明してきましたが、現実に鍼灸が未病システム学会から外されております。本当の意味では未病といえば東洋医学を行っている者なら誰でも知っていることであり、先ほどの風邪の話からも言えるように当然東洋医学が中心であってしかるべきであります。しかしながら、現実としてはずされていることを十分理解して既存の枠を撤廃していかなければならない。」と説かれました。

 次に、前回の講義の続きである脳科学について説明して頂きました。

 「以前に鍼治療を行った患者が再度治療にみえて治療を行った時、患者さんからやっぱり鍼治療で良くなると言われることがよくあります。今まで治療を受けたことがある患者との違いとは何であろうかということが疑問になります。これは記憶の問題になるはずです。まだ、現在ではすべて説明することはできませんが、非常に大事なことです。」と教えて頂き、鍼灸治療の現場で得られる現象を理解するための基礎となる、脳と記憶について講義頂きました。また脳の理解の基礎ともなる神経伝達の意味も教えて頂きました。