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日常臨床及び特定健診・保健指導におけるHbA1c国際標準化の基本方針及びHbA1c表記の運用指針について

平成24年2月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『日常臨床及び特定健診・保健指導におけるHbA1c国際標準化の基本方針及びHbA1c表記の運用指針について』を、生体制御学会研究部生活習慣病班の班長として私が以下のように報告致します

 

 

日常臨床及び特定健診・保健指導におけるHbA1c国際標準化の基本方針及びHbA1c表記の運用指針について

 

生体制御学会 生活習慣病班班長

中村 弘典

 

 

 過去1~2ヶ月の血糖値の平均であるヘモグロビンA1c(HbA1c)の 国際標準化については、ほとんどの国で臨床・学術の両面で広く用いられているNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値と、我が国で使用されているJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS 値)との差(約0.4%)が明らかとなりました。

 そこで、日本糖尿病学会は糖尿病関連検査の標準化に関する検討委員会を中心に、この問題を解決すべく関連諸団体と検討を進めてきました。平成22年7月1日より、HbA1c(JDS 値)に約0.4%を加えたNGSP値に相当するHbA1cを国際標準化として、著作・論文・発表の中で用いることで、海外との間に一定の解決をみました。

 しかし、日常臨床や特定健診・保健指導においては、HbA1cを用いた層別化・判定システムへの影響を考慮する必要がありました。このような状況から国際標準化に向けた検査の標準化・最適化を厚生労働省・日本医師会・保険者団体との協議を重ねた結果、今般の国際標準化の実施方法が確定しましたので紹介します。

 

○日常臨床及び特定健診・保健指導におけるHbA1c国際標準化の基本方針

1.日常臨床

 平成24年4月1日よりHbA1cの値はNGSP値を用い、当面はJDS値も併記する。

 尚、NGSP値とJDSは、以下の式で相互に正式な換算が可能である。

 NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25%   ・・・・(1)

 JDS値(%)=0.980×・NGSP値(%)-0.245% ・・・(2) 

[式(1)は、平成23年10月1日付でJDS値とNGSP値との間の正式な換算式として確定したものであり、式(2)は式(1)から求められる。]

 あるいは、この換算式(1)を実際に計算すれば

 JDS値で4.9%以下:  NGSP値(%)=JDS値(%)+0.3%

 JDS値で5.0~9.9%:  NGSP値(%)=JDS値(%)+0.4%

 JDS値で10.0~14.9%:NGSP値(%)=JDS値(%)+0.5%

となる(小数点以下第三位まで計算し第二位を四捨五入)。

 式(2)では、

 NGSP値で5.2%以下:  JDS値(%)=NGSP値(%)-0.3%

 NGSP値で5.3~10.2%: JDS値(%)=NGSP値(%)-0.4%

 NGSP値で10.3~15.2%:JDS値(%)=NGSP値(%)-0.5%

となる。       

                        

2.特定健診・保健指導

 システム変更や保健指導上の問題を避けるため、平成24年4月1日~平成25年3月3日の期間は、受診者への結果通知及び保険者への報告は、従来通りJDS値のみを用いる。平成25年4月1日以降の取り扱いについては、関係者間で協議する。

 

○HbA1c表記の運用指針

1.我が国におけるNGSP基準測定施設認証と換算式

 平成23年10月1日付で、(社)検査医学標準物質がJDS値を決める指定比較法であるKO500法でNGSPの基準測定施設であるアジア地区(SRL)の認証を取得し、我が国のHbA1c測定用認証標準物質を基準値とするJDS値とNGSP値との関係が、

 NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25%   ・・・・(1)

という換算式で表現されることが確定し、日本の標準物質を基盤として達成されてきた測定精度を維持しつつ、JDS値から換算式で求めるHbA1cをNGSP相当ではなく、正式にNGSP値と呼称することが可能となった。

 

2.表記に基づくHbA1cの区別

1)NGSP値で表記されたHbA1cは、「HbA1c (NGSP)」と記述する。また、従来のJDS値表記のHbA1cは「HbA1c (JDS)」とする。これまでJDS値+0.4%で表されるNGSP相当値を国際標準値として論文などで用いてきたが、今後はNGSP値を用いる。

2)文字数に制約のある検査項目

 検査項目の表示・印字文字数が5文字以内となっている臨床検査システムでは、すでにHbA1c (JDS)に対して項目名「HbA1c」が付与されている。よってこれと区別するため、HbA1c(NGSP)についてのみ、その項目名を「A1C」(アルファベットは大文字)とする。

 

3.糖尿病の診断

 平成24年3月31日までは、従来のJDS値を用いて診断し、6.1%以上を糖尿病型とする。平成24年4月1日以降は、NGSP値を用いて診断し、6.5%以上を糖尿病型とする。

 

4.HbA1cによる血糖コントロール指標と評価

 平成24年3月31日までは、従来のJDS値で表された現行の指標と評価を用いる。平成24年4月1日以降は、現行の血糖コントロール指標と評価に用いられたJDS値をNGSP値に換算した値を用いることとする。

 

 日常臨床及び特定健診・保健指導におけるHbA1c国際標準化の基本方針及びHbA1c表記の運用指針について紹介させて頂きましたが、糖尿病の診断においては、糖尿病が多種多様である疾患であることからも、検査値のみにとらわれることなく、それぞれの糖尿病患者の病態を十分に把握することが最も大切です。

 そこで、生活習慣病班では、糖尿病の招読会を通じて、基礎・臨床および最新情報を解かりやすく解説しています。

 是非、一人でも多くの先生方の参加をお待ちしております。