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腰部脊柱管狭窄症の診断サポートツールの活用

平成23年12月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体調整機構制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は「腰部脊柱管狭窄症の診断サポートツールの活用」と題して、生体制御学会研究部疼痛疾患班班長の河瀬美之先生に以下のように紹介して頂きました。

 

腰部脊柱管狭窄症の診断サポートツールの活用

 

生体制御学会研究部疼痛疾患班

河 瀬 美 之

 

 近年、高齢化社会の到来と診断医療機器の進歩により、日常臨床の中で腰部脊柱管狭窄症と診断され、腰痛、神経痛、間欠性跛行を有する患者に遭遇する機会が多くなりました。この中で馬尾障害は進行性であり、早期診断・治療が遅れた場合には手術を行っても遺残症状により患者のQOLを大きく低下させる可能性があります。

一方、腰部脊柱管狭窄症は明確な診断基準がなく、多彩な症状を呈することから発症初期に的確な診断をすることができない可能性があるのが現状です1)。

そこで、日本脊椎脊髄病学会では腰部脊柱管狭窄症の診断サポートツール2)が作成され、研究班班長の河合伸也先生は「潜在する膨大な数の患者を広く、早く発見するため、ツール作成に当たっては感度を優先した。したがって、陽性判定はLSCS(腰部脊柱管狭窄症)の確率が高いことを示しますが、それで確定診断とするわけにはいかない。癌や感染症などの重篤な疾患を除外することも重要であり、最終的には専門医による鑑別診断が必要だ」と述べ、本ツールが診断基準ではなくスクリーニングの手段であることを強調されました。この診断サポートツールは術者が評価して記入するもので、高感度で腰部脊柱管狭窄症陽性になることが確認されています。

次に、患者自記式の診断サポートツールが東北大学医学部において東北腰部脊柱管狭窄研究会版診断サポートツール3)として作成されました。日本脊椎脊髄病学会の診断サポートツールは自覚症状と他覚所見の両者に基づいて作成されたものですが、東北大学医学部のものは自覚症状のみを患者に聞いて「はい」「いいえ」と答えてもらうものです。この診断サポートツールの特徴は神経障害型式を分類できることで、神経根型と馬尾型を予測できることです。一般に神経根型は保存療法で治療が可能な場合が多いため、この鑑別が重要であると言われています4)ので、これを簡便に分類できることは有益なものであると思います。その上で、その感度と特異度において高い精度を有していることが確認されています。

 二階堂らはこのふたつの診断サポートツールの問題点と対策を報告しています1)。その問題点は専門医との連携を密にすることと、既往歴をしっかりとり、徒手検査の精度を上げることが必要であると言われています。そして、整形外科医および内科開業医ともに未だ利用頻度が低いことが懸念されているので、さらに普及させていきたい旨の報告もありました。

腰部脊柱管狭窄症の基礎知識の習得と診断のアプローチの精度を上げるために生体制御学会研究部疼痛疾患班では一連の徒手検査の訓練を行っています。また、今回の診断サポートツールを活用して臨床の診察の一助にすると共に、症例集積を行い、腰部脊柱管狭窄症に対する鍼治療の有効性を客観的に検討していきたいと思います。

 

引用文献

1)二階堂琢也他:診断サポートツールの問題点とその対策; 整形・災害外科54(9),1015-1021.2011-9

2) http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/hotnews/co/200606/500584.html

3)http://rockymuku.sakura.ne.jp/seikeigeka/youbusekityuukannkyousaku youbutuikannbannherunianozikochekkuhyou.pdf

4)東村隆他:腰部脊柱管狭窄症に対する保存療法;整形外科有痛性疾患 保存療法のコツ,39-44.2000