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自律神経反応の客観的評価

平成23年10月号

生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『自律神経反応の客観的評価』について、生体制御学会研究部情報・評価班班長の皆川宗徳先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

自律神経反応の客観的評価

 

生体制御学会研究部 情報・評価班班長

皆川 宗徳

 

はじめに

 黒野保三先生の論文「?中(CV17)への鍼刺激は心拍変動の心臓迷走神経成分を増加させるが、中庭(CV16)への刺激では増加しない。」が、2011年1月6日、オートノミックニューロサイエンスに掲載されました。鍼治療が心拍変動による評価としての自律神経機能において特異的効果を持っているという明確な証拠はない中で、今回の研究論文は、自律神経系機能を調節する経穴の特異性の存在に対する強いエビデンスを与えている世界初の研究であります。

 現在、黒野保三先生のご指導を頂き、心拍変動解析、胃電図を使用して鍼刺激による自律神経反応の評価研究を進めています。

 前回は、心拍変動解析について紹介させて頂きました。今回は、胃電図について紹介させて頂きます。

 

胃電図について 

 消化管運動機能検査は、人に対して多少なりとも苦痛を与えるため、非侵襲的な方法の確立が望まれています。現在、非侵襲的な方法として、消化管運動機能検査の一つで、胃の電気活動を生体信号として測定できる経皮的胃電図(electrogastrogram (EGG))があります。

 EGGは、腹部の体表面に電極を貼付して、胃の電気活動(平滑筋筋電図)を経皮的に記録する方法であります。そのため、EGGは非侵襲、低拘束で測定記録することが可能で、その測定したEGGを解析することにより、上部消化管運動機能、あるいは消化管の自律神経活動を客観的に評価することが可能となりました。

 胃にも心臓のように規則的な電気活動が見られ、胃の電気活動のペースメーカーは胃上体部1/3大彎側に存在し、ここからヒトでは3cpmの波が、幽門部に向かって電気活動が伝播しています。このペースメーカーは副交感神経活動の支配を受けていますが、自発的に周期的電気活動を起こしています。これは、Cajalの間質細胞、またはCajalの介在細胞(ICCs)と呼ばれる細胞群のネットワークによるものであり、ICCsが消化管運動を発生させるペースメーカー細胞であるということが示されたのは、近年のことであります。

 EGGの重要な点は、周期性制御過程を非侵襲的に測定し、消化管系の自律神経機能評価の一つになる点であり、健常人の胃では、安静時、および食後一定時間が経過したあとは1分間におよそ3回の変動が起こります。EGGの正常な変動周期は2.4~3.7cpmとされています。

 正常(normagastria)は、安静仰臥位記録のEGG周期が2.4~3.7cpmで、食事負荷後5~10分でその周期が0.2~0.5cpm程度低下します。この食事負荷後の一過性周期低下の事をpostprandial dipといい、これは迷走神経機能を反映します。食後に振幅は通常1~3倍程度増加し、2.4cpmより遅い周期はbradygastria、3.7cpmより早い周期はtachygastria、また一定の周期が見られないときはarrhythmiaとされ、異常と判定されます。postprandial dipが明瞭に見られないときも異常と判定し、迷走神経の機能障害を疑います。以上のように胃電図の周波数解析により、自律神経の異常を評価することが可能となりました。

 

おわりに

 今回、胃電図による自律神経の評価について紹介させて頂きました。

 今後、黒野保三先生のご指導を頂き、鍼刺激に対する自律神経反応を、心拍変動解析、胃電図による客観的な自律神経指標を用い鍼灸の基礎的研究を進めて行きたいと思います。