平成23年8月号
(社)生体制御学会
会長 中 村 弘 典
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『糖尿病診断基準と国際標準化によるHbA1cの運用について』を、生体制御学会研究部生活習慣病班の担当として私が以下のように報告致します
糖尿病診断基準と国際標準化によるHbA1cの運用について
生体制御学会 生活習慣病班班長
中村 弘典
HbA1c は、健康診断、糖尿病実態調査や国民健康・栄養調査などに広く活用され、診断の補助的手段としても、日本糖尿病学会の「糖尿病の分類と診断基準の改訂(1999 年)」以来取り入れられています。
しかし、我が国で使用されているJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS 値)は、世界に先駆けて精度管理や国内での標準化が進んでいるものの、日本以外のほとんどの国で使用されているNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値で表記されたHbA1c 値と比較して約0.4% 低値であるという問題が存在しています。
そこで今回、日本糖尿病学会の糖尿病診断基準に関する調査検討委員会で報告された糖尿病診断基準と国際標準化によるHbA1cの運用について紹介します。
HbA1c の測定上の問題を解決するため、我が国も含めて国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry,IFCC)が中心となり、新しい表記法を用いた国際標準化が検討されているが、相当の時間を要する状況にあり、糖尿病学会では新たな糖尿病の分類と診断基準を策定し、2010 年7月1日から新しい糖尿病診断基準を施行することが決定されました(図)。
図 糖尿病臨床診断のフローチャート
HbA1c(国際標準値)%は、現行のJDS値で表記されたHbA1c (JDS値)%に0.4%を加えた値で表記する。
○糖尿病診断の手順
1.臨床診断
1)初回検査で、①空腹時血糖値≧126mg/dL②75gOGTT2時間値≧200mg/dL③随時血糖値≧200mg/dL④HbA1c(国際標準値)≧6.5%(HbA1c (JDS値) ≧6.1%)のいずれかを認めた場合は、「糖尿病型」と判定する。別の日に再検査を行い再び確認できれば糖尿病と診断する。但し、HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする。また、血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと(①~③のいずれかと④)が確認されれば、初回検査だけで糖尿病と診断してよい。
2)血糖値が糖尿病型(①~③のいずれか)を示し、かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。
(1)糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
(2)HbA1c≧6.5%
(3)確実な糖尿病網膜症の存在
3)過去において上記の1)ないしは2)の条件がみたされたことが、病歴などで確認できる場合は、現在の検査値が上記の条件に合致しなくても、糖尿病と診断するか、その疑いを持って対応する。
4)上記の1)~3)の条件によっても糖尿病の判定が困難な場合には、患者を追跡し時期をおいて再検査する。
5)初回検査と再検査における判定方法の選択には、以下に留意する。
初回検査の判定にHbA1cを用いた場合、再検査ではそれ以外の判定方法を含めることが診断に必須である。検査においては、原則として血糖値とHbA1cの双方を測定するものとする。
初回検査の判定が随時血糖値≧200mg/dLで行われた場合は、再検査は他の方法によることが望ましい。
HbA1cが見かけ上の低値になりうる疾患・状況の場合は、必ず血糖値による診断を行う。
2.疫学調査
糖尿病の頻度推定を目的とする場合は、1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい。HbA1c(国際標準値)≧6.5%(HbA1c (JDS値) ≧6.1%)あるいは、なるべく75gOGTT2時間値≧200mg/dLの基準を用いる
3.検診
糖尿病およびその高リスク群を見逃すことなく検出することが重要である。スクリーニングには、血糖値・HbA1cのみならず、家族歴・肥満などの臨床情報も参考にする。
○国際標準化HbA1c の運用の実際
1.HbA1c の表記
①従来我が国で使用されてきたJDS lot4 によって標準化されたHbA1c をHbA1c(JDS 値)と呼び、HbA1c(JDS 値)に0.4% 加えたものをHbA1c(国際標準値)と呼ぶ。これは、米国をはじめ海外で使用されているHbA1c(NGSP 値)に相当する値である。
②日常臨床においては、糖尿病学会が別途告知する日時(以下,「国際標準化変更日」と記載)までは、検査結果として印字されるHbA1c は、HbA1c(JDS 値)とし、それ以降はHbA1c(国際標準値)とするが、いずれの場合もHbA1c と表示される。但し、「国際標準化変更日」以降は、検査結果印刷用紙に脚注などの形でHbA1c が国際標準値表示されていることを明記する。患者には「国際標準化変更日」までの数値に比して0.4% 高値となっていることを十分説明する。
③上記のような変更は、測定機器メーカーや臨床検査学会、各病院の検査部との協力により、全国一斉に行われる。
④JDS 値と国際標準値とを区別して表示する場合、各々HbA1c(JDS 値)及びHbA1c(国際標準値)と表示すべきである。ただし、測定機器からの直接印字またはモニタ表示においてHbA1c(JDS 値)やHbA1c(国際標準値)の表記が困難な場合は他の項目名での表記も認めるが、その表記の意味を医療関係者・患者に十分説明すること。
⑤HbA1c の1c 部分の印字は、原則として下付きとしない。
2.糖尿病の診断
①新しい診断基準(「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」として学会誌「糖尿病」2010 年6 月号に掲載および糖尿病学会ホームページに掲示)は2010 年7月1日から適用される。
②その際の診断に用いるHbA1c は、「国際標準化変更日」まではHbA1c(JDS 値)であり、6.1% 以上を糖尿病型とする。「国際標準化変更日」以降はHbA1c(国際標準値)を用い6.5% 以上を糖尿病型とする。
3.血糖コントロールの指標と評価
「国際標準化変更日」までは、HbA1c(JDS 値)で表された現行の指標と評価を用いる。
「国際標準化変更日」以降は、改めて糖尿病学会が改訂を告知するまでは、現行の基準を踏襲し、HbA1c については国際標準値により表された指標と評価を用いることとする。
糖尿病診断基準と国際標準化によるHbA1cの運用について紹介させて頂きましたが、糖尿病の診断においては、糖尿病が多種多様である疾患であることからも、それぞれの糖尿病患者の病態を十分に把握することが大切です。そのためにも生活習慣病班では、糖尿病の招読会を通じて、基礎・臨床および最新情報を解かりやすく解説しています。
是非、一人でも多くの先生方の参加をお待ちしております。