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腸管出血性大腸菌について

平成23年7月号

(社)生体制御学会会長

中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『腸管出血性大腸菌について』について、生体制御学会研究部生体防御免疫疾患班班長の井島晴彦先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

腸管出血性大腸菌について

 

生体制御学会研究部 生体防御免疫疾患班班長

井島 晴彦

 

 腸管出血性大腸菌について次のような報道がありました。

「ユッケ食中毒、未開封肉と19人の菌一致O111の遺伝子型検査」

焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、富山県と横浜市は平成23年5月24日、横浜若草台店で回収した未開封のユッケ用生肉と、死者4人を含む客や従業員19人から検出された大腸菌O111の遺伝子型が一致したと発表した。

 富山県は、異なる店舗で食事をした複数の患者と未開封の肉から同種の菌が見つかったことから、汚染源が店舗納入前の流通段階にあった可能性が強まったとの見方を示している。

  福井、富山両県のこれまでの検査では、死亡した男児2人から検出された菌が一致していた。富山県によると、死亡直後に菌が発見されなかった43歳の女性からもその後の検査でO111を検出。死者4人の検出菌の遺伝子型が一致した。

  死者以外の15人は、富山県の3店舗で食事した患者12人と従業員2人、横浜市の店舗の従業員1人。」 

2011.5.24 MSN産経ニュース

 

腸管出血性大腸菌の基礎知識

この病原大腸菌は、血液が混じった下痢を起こすことから、腸管出血性大腸菌と呼ばれます。

  腸管出血性大腸菌は大腸に定着し、‘ベロ毒素’と呼ばれる強い毒素を放出して腸管が水分を吸収できなくしたり血管を破壊したりします。

  腸管出血性大腸菌が世界的に注目されはじめたのは、1982年に米国で、ビーフハンバーガーを食べた住民が強い腹痛を訴え、真っ赤な血のような下痢を起こしました。その原因菌として見つかったのが腸管出血性大腸菌の仲間の一つで、有名なO157です。日本では、1996年に大阪府堺市で小学生を中心とした大きな集団事例が発生し、散発的な発生例を含めて、その年には17,877名の患者と12名の死者が発生し社会問題となりました。

  症状は、腹痛と水様性の下痢として出現し、翌日に血便がでることが多いようです。嘔吐は少なく、発熱は多くは37℃台と軽度です。潜伏期間は、一般的に3~5日で、感染後10日以降に発症する場合もあります。回復期間は平均8日とされていますが、一部の患者ではHUSといわれる腎臓などの障害を引き起こし重症化(死亡する場合も)、長期化する場合もあります。

  小児や高齢者では重症化しHUSを発症する割合が比較的高く、また、腸管出血性大腸菌も重篤な場合が多いと言われていますので、ご家庭をはじめ、学校や幼稚園、保育園、老人ホーム等の施設では特に注意しなければならない細菌です。

 

腸管出血性大腸菌による食中毒の予防について

  腸管出血性大腸菌は加熱により死滅します。したがって、腸管出血性大腸菌の食中毒を予防するためには、生肉を使った肉料理を避けることや、肉の中心部まで十分に加熱することが重要です。

  飲食店などで食べるときには、生肉や肉を生焼けで食べる料理がメニューにあっても、なるべく避けたほうが安全です。また、焼肉やバーベキュー等、自分で肉を焼きながら食べる場合も、十分加熱し、生焼けのまま食べないようにしましょう。

  特に、若齢者、高齢者、抵抗力が弱い方は、重症化することがありますので、生肉や加熱不十分な肉料理を食べないようにしてください。

 

  生体防御免疫疾患班の研究日には、腸管出血性大腸菌のような細菌が体に入った場合や、インフルエンザウイルスなどのウイルスに感染した場合に、それぞれどのような仕組で防御するかなどの免疫の基礎的な内容について、わかりやすく説明させて頂いております。

  是非、一緒に免疫の勉強をしましょう。

一緒に勉強して頂ける方は、(社)生体制御学会事務局か、井島までご連絡下さい。