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頚髄症に対する評価

平成23年6月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体調整機構制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は「頚髄症に対する評価」と題して、生体制御学会研究部疼痛疾患班班長の河瀬美之先生に以下のように紹介して頂きました。

 

頚髄症に対する評価

 

生体制御学会研究部疼痛疾患班

河 瀬 美 之

 

 頚髄症(頚椎症性脊髄症)は頚椎レベルで椎間板、靭帯の肥厚や骨化による老化変性によって脊髄神経を圧迫することにより様々な症状を発症する病態です。その症状は手指のしびれからはじまることが多く、進行すると手指の細かな運動(字を書いたり箸を使うなどの巧緻運動)が障害されたり、上肢の脱力や歩行が障害され、最悪の場合には寝たきりになります。高齢社会にあってこの疾患が社会的な問題になってきています

 本疾患の治療法として保存療法で有効性が確立されたものがなく、唯一有効な治療法は手術療法とされていますが、進行した段階で手術を行っても症状が残存することが多いといわれています1)。そのような背景から、この疾患に対する重症度を測る目安が必要となってきています。

 今回は頚髄症に対する新しく考案された評価法について文献を紹介致します。

 我が国では日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)が使用されています。これを使用した経過観察では、後縦靭帯骨化症患者でJOAスコア点数が12点以上では手術療法と保存療法で生活自立度に大きな差がなく、12点以下では有意に手術療法が有効であり、逆に4点以下だと手術療法でも改善が低下したという報告があります2)。

 JOAスコアは患者または治療者の主観で判断されるものであり、客観的な頚髄症の評価法として手指のmyelopathy handを評価する10秒テストが知られています3)。

 このテストの有用性は多数報告されていますが、10秒テストが陽性になる患者の中には頚部神経根症の患者も含まれるという臨床経験から細野ら4)は15秒テストを考案して調査したところ、C6またはC7神経根症患者でmyelopathy handが存在することを明らかにしました。

 また、10秒テストは上肢機能のみを反映する検査として、湯川1)は10秒足踏みテストを考案し、頚髄症の術前重症度や術後の改善をよく反映する簡便な定量的検査法であると報告されました。

 これらのことから、頚髄症は多方面から評価する必要のある疾患であり、今後さらに様々な検査法が検討されると思われます。

 頚髄症を診るにあたって、その鑑別にはPTR(膝蓋腱反射)とWartenberg反射、10秒テストを使用することが報告されており3)、生体制御学会研究部疼痛疾患班ではこれらを徒手検査に加え、班員の先生方と症例を集積しています。

 今後は、常に頚髄症の新しい情報を入手し、頚髄症に対する鍼灸治療の有効性を客観的に検討していきたいと思います。

 

文献

1) 湯川泰紹:圧迫性頚髄症の新しい定量的評価方法「10秒足踏みテスト」;整形外科62(5),483-485.2011-5.

2) 松永俊二:頚椎後縦靭帯骨化症;整形外科有痛性疾患 保存療法のコツ,100-104.2000.

3) 清水敬親:頚椎症;整形外科有痛性疾患 保存療法のコツ,89-94.2000.

4) 細野 昇ほか:頚部神経根症におけるmyelopathy hand;臨床整形外科45(9),843-847.2010-9.