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海外での得気の考え方について

平成23年4月号

生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『海外での得気の考え方について』について、生体制御学会研究部情報・評価班班長の皆川宗徳先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

海外での得気の考え方について

 

生体制御学会研究部 情報・評価班班長

皆川 宗徳

 

 今回、Autonomic Neuroscience:Basic and Clinicalの「Acupuncture and heart rate variability:A systematic review」の海外論文を読む機会がありました。その中で、海外での鍼刺激を考える場合、得気を非常に重要視していることがわかりましたので、紹介させて頂きたいと思います。

 海外での得気(De qi)の考え方として、得気とは、鍼を刺した時の独特の感覚として捉えており、しびれ感、重い感じ、放散する感じ、うずき感、締め付けられるような感じの感覚を与えることを鍼刺激として定義しています。この得気を与えるような鍼刺激による心拍変動指標は、どのような変化を示しているのでしょうか?12件のRCT(ランダム化比較試験)研究の中で、9件において得気を与える鍼刺激を行っています。得気を与えた鍼刺激による心拍変動指標の変化は、副交感神経の指標であるHFが、減少する例や、変化が認められないもの、また、交感神経の指標であるLF/HFが、増加する例もあり様々でした。このような研究結果から、鍼刺激により自律神経機能に変化が認められるという確かなエビデンスが確認できなかったと考察されています。

 今回、黒野保三先生が名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野教授の早野順一郎先生と共同研究をしてAutonomic Neuroscience:Basic and Clinicalに投稿されました論文「Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J. Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. Auton Neurosci.2011」の中で、得気を与えない鍼刺激(筋膜上圧刺激)により心臓副交感神経を増加させるという研究結果を報告されました。この研究結果は、海外での鍼刺激の考え方を根底から変えるものであり、世界初の論文であります。

 今後、黒野保三先生のご指導を頂きながら、鍼治療のメカニズム解明のため、自律神経の研究を進めてまいりたいと思います。