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トランス脂肪酸の表示指針案について

平成23年2月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『トランス脂肪酸の表示指針案について』を、生体制御学会研究部生活習慣病班の担当として私が以下のように報告致します

 

 

トランス脂肪酸の表示指針案について

 

生体制御学会 生活習慣病班班長

中村 弘典

 

 

はじめに

 消費者庁は、悪玉コレステロールを増やし、心臓疾患などのリスクを高めるとされるトランス脂肪酸の表示を機に安全な食生活につなげたいという考えで、昨年の10月に食品に含まれるトランス脂肪酸の量を商品事業者が自主的に表示するための指針案を公表しました。

 この動きは、他国に比べて遅れた対応でありますが、食品業界や消費者団体のこの問題に対する反応が昨年の10月28日に中日新聞に掲載されましたので紹介します。

・指針案の説明会

 記事によりますと、表示の指針案を公表した消費者庁は、東京都内で指針案の説明会を開き「法的根拠はなく、自主開示してもらう参考に」と繰り返したことに対して、商品事業者からは表示切り替えのコストを下げるため「最初から義務化に対応できる表示にしたい」との意見も出されましたが、消費者庁は義務化の場合でも猶予期間は置くと説明しています。

 

・低減努力に前向きな企業

 食品メーカーによっては「普通の食生活ならトランス脂肪酸を特に心配する必要がない」との見解もあるが、大手の雪印メグミルクは「トランス脂肪酸の低減に努力していく」と前向きです。また、海外情報も踏まえて低減を進めてきた月島食品工業、創健社などは、表示が新規ユーザーの開拓につながるとみて期待を寄せています。

 

・使用規制求める市民団体

 食の安全・監視市民委員会の神山美智子代表は「表示だけでなく、トランス脂肪酸の使用規制を求めたい考えで、この問題は数年前に騒がれてから時間がたっており、表示をきっかけにメーカーの低減努力が期待できるかは、消費者の関心次第」とみています。

 

・背景に危険域超す摂取

 WHO(世界保健機関)は2003年にトランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満となるように勧告しました。デンマークなどは使用を規制し、北米、南米、韓国などでは表示が義務化されました。しかし、日本では「平均摂取量は0.6%程度とする研究データーが重視され、表示への対応が遅れていました。

今回の指針案公表の背景として「最近の研究で、若年層や女性などに摂取量が1%を超えている集団があるとの報告がある」と消費者庁が指摘しました。

また、WHOが2008年に摂取量の多い人たちを完全に考慮していなかったとして、「1%未満」とした勧告を見直す可能性を認めた点も挙げています。

 

・トランス脂肪酸

 現在、広く行われている製油法の過程で生じる異常な脂肪酸(異常で不健全な結合)で、脂肪の分子中の炭素と水素の結びつきに変化が生じたもの(炭素の二重結合の場所で炭素と水素の結びつきが正常な結合と違う)であり、役に立たないばかりか体に害をもたらす悪玉の脂肪であります。

脂肪酸は細胞膜の構成要素になっているものですが、細胞膜の中にトランス型が紛れこむと細胞膜は弱くなり、細胞膜及び細胞の働きを狂わせ、また体内でビタミンなどの栄養物質を食い荒らします。

 また、このトランス脂肪酸がガンや心臓病の大きな原因になることは、数多くの研究で明らかにされており、オランダの研究では、精製油に含まれているトランス脂肪酸が、飽和脂肪酸と同様に悪玉コレステロールといわれる低比重リポ蛋白質を増やし、善玉コレステロールの高比重リポ蛋白質を減らすと指摘しています。

 

・驚異の食品マーガリン

 日本の食用油、マーガリン30余種を分析(カナダ。SGS研究所)した結果では半数以上のものが問題製品でした。これらは実は使い古しの天麩羅油よりも「トランス脂肪酸」が数10倍も多いということが分析結果から判るものでした。

 

おわりに

 トランス脂肪酸の使用規制は、数年前に騒がれてから時間がたっており、メーカーの低減努力が期待できるかは、消費者の関心次第と考えられています。

 また、消費者庁はトランス脂肪酸についての情報をウェブサイトで紹介し、国民からの意見を求めています。健康を守るのは自分自身であると思いますので、是非、参考にして頂きたいと思います。

 

文献

 消費者庁ウェブサイト:http://www.caa.go.jp/foods/index5.html