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ノロウイルスの基礎知識と対策法

平成23年1月号

(社)生体制御学会会長

中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『ノロウイルスの基礎知識と対策法』について、生体制御学会研究部生体防御免疫疾患班班長の井島晴彦先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

ノロウイルスの基礎知識と対策法

 

生体制御学会研究部 生体防御免疫疾患班班長

井島 晴彦

 

 昨年末にノロウイルスについて次のような報道がありました。

「ノロウイルスなどが原因で激しい下痢や嘔吐(おうと)を起こす感染性胃腸炎が全国的に流行の兆しを見せている。西日本でも大阪市や奈良県などで、11月末までの発症者数が前年同期の2~10倍に急増。例年12月に本格的な流行を迎えるため、ホテルや飲食店、病院などでは消毒・洗浄の徹底をはじめ、感染拡大の食い止めに懸命だ。

 全国約3千の小児科を対象にした国立感染症研究所の調査によると、ノロウイルスが原因とみられる感染性胃腸炎の患者数は先月8~14日の1週間で1施設あたり7.7人と前年同時期の倍以上になった。

 関西でも感染は急拡大。大阪市では10~11月、市内の8保育所・幼稚園に通う0~5歳の児童と職員計231人にノロウイルスが原因とみられる感染性胃腸炎の症状が確認された。前年同期の倍以上という。大阪府のまとめでは11月の府内(大阪、堺、高槻、東大阪の各市を除く)の発症者数は前年同月の約5倍の533人に急増した。」 

日本経済新聞 平成22年12月2日

 

ノロウイルスの基礎知識

 ノロウイルスは、直径25~35nmの非常に小さなウイルスで、特に冬季に、幅広い年齢層において感染性胃腸炎(嘔吐・下痢などの症状)を引き起こします。このウイルスは患者の糞便や嘔吐物に、1gあたり100万個~10億個もの大量のウイルスが含まれている一方で、100個以下という少量でも人に感染するので注意が必要です。ノロウイルスは乾燥した状態でも、4℃では60日間、20℃でも3~4週間生存できます。また、一度感染すると、症状が改善しても1週間から、長い場合は4週間にわたって糞便中にウイルスを排出することが、ノロウイルスが広がりやすい原因と考えられています。

 

ノロウイルス感染後の対策法

①手洗い

 トイレの後、食事の前、調理の前、おむつ交換の後、嘔吐物や下痢便の処理の後などに、流水・石けんによる厳重な手洗いやうがいが有効です。また、症状のある方とのタオルの共用は厳禁。小さな子供がいる家庭では、普段から排便後や食事前の手洗いを習慣づけることが重要です。

②嘔吐物・下痢便の処理

 感染者の嘔吐物や下痢便には、ウイルスが大量に含まれています。わずかな量が体内に入っただけで容易に感染するウイルスなので、その処理については十分注意が必要です。できる限り子供や高齢者の方を処理場所から遠ざけて下さい。処理をされる方は、ご自分の防御の為、マスク・手袋をしっかりと着用し、雑巾・タオル(ペーパータオル)等で吐物・下痢便等が飛び散らないよう、静かにしっかりと拭き取ることです。オムツ等は、出来るだけ揺らさないように取り扱って下さい。

 拭き取りに使った雑巾・タオルはビニール袋に入れて密封し、破棄して下さい(破棄しない場合は、水洗い後しっかりと煮沸消毒して下さい)。その後、家庭用塩素系漂白剤を250倍ほどに薄めたもので、吐瀉物や下痢便のあった場所を中心に、広めに消毒を行います。塩素系漂白剤を含ませた布でおおって、しばらくそのまま放置して消毒する方法もあります。

③調理時

 ノロウイルスは、主に貝類の内臓、特に「中腸腺」と呼ばれている黒褐色をした部分に存在しています。

したがって、表面を洗っただけでは除去できません。貝類は十分に加熱してから食べるようにし、湯通し程度の加熱で食べないようにして下さい。少なくとも「85℃で1分以上の加熱」が必要です。

④症状が治まった後

 症状が治まった後でも、数日間(長い場合は1ヶ月ほども!)ウイルスは便等から排出されますので、しばらくは注意が必要です。

 

 さらに、ノロウイルスに感染しにくくし、症状を重症化させないために一番肝心で誰でもできることは、体の調子や免疫力を高めることだと考えます。規則正しい生活、適度な運動、偏らない食事をすることや、過剰なストレスを受けないこと、生活に笑いを取り入れることなどが重要です。

また、鍼治療が免疫力を高めるために役立つことを、生体防御免疫疾患班を代表して角村幸治先生が第54回 (社)全日本鍼灸学会学術大会(福岡大会)で「鍼治療による風邪罹患回数の変化」と題して報告しています。この中では、鍼治療の継続期間が長い患者さんほど、風邪をひきにくくなったと感じていることが報告されています。

 以上のような自然な方法で免疫力を高める努力をしたうえで、正しい方法によるうがいや、手洗い、マスクの着用を心がけることが必要だと考えます。是非実行して頂きたいと思います。