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糖尿病新薬(インクレチン関連薬)の紹介

平成22年8月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『糖尿病新薬(インクレチン関連薬)の紹介』について、生体制御学会研究部生活習慣病班の担当として私が以下のように報告致します。

 

 

糖尿病新薬(インクレチン関連薬)の紹介

 

生体制御学会 生活習慣病班班長

中村 弘典

 

はじめに

 現在、糖尿病治療の目的は、合併症が発症・進展しないように経口血糖降下剤が投与されているが、従来の薬剤では食事量に応じたインスリン分泌能を再現できず、食後高血糖の抑制が不十分であった。

 現在、わが国で糖尿病新薬として販売が開始されているGLP-1受容体作動薬やDPP4阻害薬といったインクレチン関連薬は、機能的な膵β細胞を増加させ、食事量に応じてインスリン分泌を惹起することで、血糖値の上昇を抑える可能性があると期待されている。

 そこで、今回は糖尿病新薬とその注意点を紹介する。

 

1)インクレチンとは?

 インクレチンとは栄養素の経口摂取により腸管から分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進させる消化管ホルモンの総称で、GLP-1(glucagon-like peptide-1)とGIP(gastric inhibitory polypeptide)がその代表的なものである。また、このインクレチンの分解を遅延させるDPP-4阻害薬(dipeptidyl peptidase4)が、新しい作用機序を持った抗糖尿病薬として開発された。

 インクレチンは糖質や脂質などの腸管への流入に伴って分泌される。糖の吸収が盛んな小腸上部ではブドウ糖が直接K細胞を刺激し食後30-60分という比較的早期からGIP分泌は起こり、その分泌量も多い。一方、GLP-1は食物摂取の際の神経刺激あるいはL細胞へのブドウ糖の直接刺激により分泌され、2型糖尿病では分泌低下しているとの報告もある。

 

図 インクレチン

栄養素が消化吸収されると、消化管から分泌される

インクレチンが膵β細胞からのインスリン分泌を促進する

 

2)GLP-1受容体作動薬

 インクレチンの分子構造を変えて、DPP-4によって分解されにくくした「GLP-1アナログ」の開発が進められている。わが国では、皮下注射製剤として、ヒトGLP-1アナログ製剤、「リラグルチド」とGLP-1受容体作動薬、「エキセナチド」の開発が進められた(図)。

 リラグルチドの半減期は11~13時間で、1日1回の投与(HbA1cが7.5~8.0以上の場合)となる。一方、エキセナチドは半減期が3.5~4時間で、1日2回の投与が必要となる。

 

3)DPP-4阻害薬

 インクレチンは分泌後,速やかに蛋白分解酵素のDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ4)によって分解される。そこで、DPP-4活性を阻害して内因性インクレチン濃度を高めるDPP-4阻害薬(図)が開発されている。1日1回経口投与(HbA1cが7.5~8.0未満の場合)で良いというのが大きな魅力である。低血糖の発現を気にすることなくHbA1cを効率よく下げられるといわれているが、GLP-1に比べるとHbA1c低下作用は弱く、体重減少も認められないという弱点もある。

 

4)GLP-1受容体作動薬・DPP4阻害薬の問題点

 GLP-1は、強いインスリンの初期分泌を起こすとお役ご免で、それ以上存在すれば膵臓を過剰に刺激して炎症を起すのではないかと考えられます。GLP-1誘導体の投与による治療では、生理的濃度を超えて薬理的濃度に達します。よって消化器系副作用の発現頻度が上昇するといわれています

 DPP-4阻害薬は、インクレチンの活性を高めるだけでなく、種々の生体内の生理活性ペプチドの分解にも関与するため、予想外の副作用が生じる可能性がある。

 また、腎臓から排泄されるタイプの薬剤で、腎機能が低下した症例には減量する必要があるとされています。

 

おわりに

 2型糖尿病の新しい薬剤として、インクレチンに関連した薬剤の販売が開始され、高血糖のときのみに作用し、低血糖を起こしにくく、食欲を抑えて肥満を抑制する作用もあるとされている。

しかし、昨年発売が開始されて以来、低血糖による意識障害が報告されおり、厚生労働省はインクレチン関連薬に対する使用上の注意を呼びかけていることから、糖尿病新薬の安易な投与は大きな危険性を含んでいることを考慮して患者の指導にあたらなくてはならない。

 従って、糖尿病のコントロール状態を良好に保つためには、糖尿病治療の根本である食事療法や運動療法の生活習慣の改善に加え、全身調整を目的とした 鍼治療(生体制御療法)を併用することが最良の手段であると考えられる。

 

文献

1)太田康晴、谷澤幸生:膵β細胞に「優しい」糖尿病治療薬.山口県医師会報.平成20年5月.第 1773号.P443~447.

2) http://www.somos.co.jp/solution/d/065.html