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慢性腰痛に対する生活習慣指導

平成22年6月号

(社)生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『慢性腰痛に対する生活習慣指導』について、生体制御学会研究部疼痛疾患班班長の河瀬美之先生に以下のように解説して頂きました。

 

慢性腰痛に対する生活習慣指導

 

生体制御学会研究部疼痛疾患班

河瀬 美之

 

 医師のパターナリズムが当然として考えられていた時代には、医療の評価は医師が行うことが当然とされてきました。しかし、医療を患者自身が選択する時代において、医師の立場からの医療効果に対する評価は患者自身の満足度を直接反映したものとはならず、患者自身の医療評価の必要性が提唱されはじめ、そのための基準としてQOL評価尺度が開発されてきました。整形外科領域でもQOL評価尺度を用いた様々な研究が始まっています。

 一般に経験上、慢性腰痛の原因のひとつとして運動不足(その結果としての肥満)が考えられていますが、このことによる介入研究による調査結果が報告されていないのが現状です。そこで、このことに着目した産業医科大学整形外科の中村英一郎先生らが行った研究内容を紹介致します。

 

 対象は某事業所の定期健康診断を受けた1973名のうち、BMIが24以上で腰痛が1ヶ月以上持続する20~60歳までの男性で除外基準に該当しない43名とした。

 方法は保健指導実施群(介入群)と保健指導未実施群(非介入群)の2群に無作為に割り付けた。

【介入群】

 減量を促す食事などの生活習慣指導と腹筋、殿筋運動各20回、2セットとウィリアムズ腰痛体操、自己記入式体重測定を毎日実施

【非介入群】

 通常の作業時における作業姿勢の注意点のみの指導

 調査期間は2ヶ月、痛みの程度はVAS、QOL評価尺度はSF-36を使用し、調査前後で比較した。

 結果は介入群23名、非介入群20名となり、BMIと腹囲、痛みの程度、QOLで有意な改善が認められた。

 QOLでは2群間で比較すると、「活力」「社会生活機能」で有意差が認められた。

 各群内での改善の程度は、介入群で「痛み」「全体的健康感」「活力」「社会生活機能」の4項目で有意に改善されたが、非介入群には有意に改善した項目は認められなかった。

 腹囲減少と腰痛の改善に弱い相関がみられた。

 考察と結語は肥満かつ腰痛のある者に対する腹筋殿筋運動と体重減量を促す指導は腰痛ならびに腰痛により低下したQOLの改善効果があることが認められたとした。

 

 慢性腰痛患者の治療にあたっては、肥満や運動不足がある場合には適度な運動を指導すると思います。患者もこのことはある程度わかっていても取り組めないことが多いですが、今回紹介させて頂いた文献の研究結果を紹介し、診療における生活指導の参考にして頂きたいと思います。

 生体機構制御学会研究部疼痛疾患班では班員の先生方の協力のもと、腰痛患者に対する鍼治療の有効性を客観的に検討する目的で、VASとQOL評価尺度であるRDQを使用して腰痛とQOLレベルの改善を検討し、鍼治療が有効であることを報告しています。今後は各種疼痛疾患に対する様々な治療法と鍼治療を比較検討していきたいと思います。

 

引用文献 

 中村英一郎、中村利孝:慢性腰痛症の治療としての生活習慣指導.臨床整形外科45(1),5-8.2010