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自律神経反応の客観的評価

平成22年4月号

生体制御学会

会長 中 村 弘 典

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『自律神経反応の客観的評価』について、生体制御学会研究部情報・評価班班長の皆川宗徳先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

自律神経反応の客観的評価

 

生体制御学会研究部 情報・評価班班長

皆川 宗徳

 

 黒野保三先生のご指導を頂き第27回(社)生体調整機構制御学会学術集会において「心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価」と題して一般口演発表をさせて頂き、心拍変動(heart rate variability、HRV)解析による自律神経機能の評価法について勉強させて頂きました。今回は、心拍変動解析について紹介させて頂きます。

1.心拍変動分析評価

心拍変動解析は、副交感神経刺激に対する迅速な心拍応答と交感神経刺激に対する緩徐な応答のためそれぞれ交感神経、副交感神経優位の周波数帯が生じることに着目し、自律神経活動の指標として考えられました。

心拍情報の複雑性は、環境変化に応じた心血管系と自律神経系の間の相互作用を反映したものであります。心拍スペクトル解析は、心拍変動に対する交感神経系と副交感神経系の間の相対的寄与を定量化するために使用されています。心拍数のパワースペクトルは、低周波成分と高周波成分に分離されます。β遮断剤、アトロピン、あるいは両方を用いたこれまでの研究によれば、血圧の低周波成分(0.04~0.15Hz)は血管運動性トーヌスを反映し、心拍数の低周波成分は圧受容器反射経由による交感神経と副交感神経の影響の相互作用を反映するといわれています。心拍のパワースペクトルの高周波領域(0.15~0.45Hz)は、副交感神経系の制御下にあり、呼吸性洞性不整脈を表すと考えられています。スペクトル解析方法により、健康者において、加齢に伴い心拍数の圧受容器反射性および副交感神経性調節が低下し、比較的多くの高周波の副交感神経性成分が失われることが示されています。

2.自律神経系と心機能との関わり

自律神経系の交感神経系と副交感神経系は、心機能の制御において、主要な役割を果たします。一般的に心臓支配の交感神経は促進性であり、これに反して副交感神経(迷走神経)は抑制性であります。交感神経と副交感神経の動力学は、本質的に異なり、迷走神経の効果は迅速で、1心拍程度以内であり、その効果の消失も非常に速い。すなわち、迷走神経は、心機能の制御を1拍ごとに制御します。反対に交感神経活動は、開始と終了ともに緩徐であり、1心拍程度の時間では、非常に小さな変化しか認められません。交感神経系と副交感神経系が同時に作用すると、その効果は数学的に加算されるような単純なものではなく、入り組んだ相互作用が主体となります。

心臓交感神経活動が刺激されると、心拍数と心収縮力は、1~3秒の潜時をもって増加し始め、30秒程度で定常状態に達します。刺激がなくなると、再びもとの状態に戻るのには、刺激開始から定常状態に達するよりも時間がかかります。

3.心拍変動は心理的問題や自律神経のバランスを測定できる

 心拍のRR間隔の1拍ごとの変動を瞬時に測定することにより、心臓の自律神経緊張の指標となります。

変動性は加齢によって減少し、自律神経系の障害が生じると、交感神経優位へ偏位し、特に高齢者では心血管系の変性が促進されます。心拍変動の低下は交感神経緊張の亢進と副交感神経緊張の減少によると思われ、心不全、冠動脈疾患、急性心筋梗塞による死亡率と関連があるとされています。以上の事柄からいかに副交感神経優位な状態を保つかが重要であることがわかります。

 今回、心拍変動による自律神経の評価について紹介させて頂きました。

 今後、黒野保三先生のご指導を頂き、鍼刺激に対する自律神経反応を、心拍変動解析による客観的な自律神経指標を用い鍼灸の基礎的研究を進めて行きたいと思います。