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今、新型インフルエンザにどう対応すべきか

平成22年1月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『今、新型インフルエンザにどう対応すべきか』と題して、生体制御学会研究部生体防御免疫疾患班班長の井島晴彦先生に以下のように解説して頂きました。

 

 

今、新型インフルエンザにどう対応すべきか

 

生体制御学会研究部 生体防御免疫疾患班班長

井島 晴彦

 

 2009年 10月 16日に新型インフルエンザへの対応について岩田健太郎教授(神戸大都市安全研究センター医学研究科微生物感染症学講座教授)による次のような報道がありました。 

 新型インフルエンザへの対応が多く議論されています。いろいろなご意見を伺っていて、私がずっと考えたことをこの場で申し上げさせてください。

1.まず、思い出したいのは、新型インフルエンザ、豚由来インフルエンザA(H1N1)は発見されたばかりの見つかりたてほやほやの疾患だということです。

 私たちは多くの病気と取っ組み合いますが、各々の疾患について長い間研究が重ねられてきました。大抵は何十年という年月です。けれども、私たちは未だにアルツハイマー病の決定的な治療法を知らず、脳梗塞時の決定的な至適血圧を知らず、理想的なコレステロール値を知らず、全ての年齢層におけるうつ病の最良の治療法を知らず、多くの進行癌の治癒法を知りません。

 疾患の理解には長い年月をかけた基礎的な研究が必要になりますし、治療法や予防法の開発についてもそうです。臨床的に、実際に現場で患者さんに役に立つか、という議論になるとさらに長い年月をかけた検証(≒臨床試験)が必要になります。予防接種の有効性や安全性の検証にも時間がかかります。

 季節性インフルエンザの有効性については未だに多くの議論がありますし、麻疹ワクチンの安全性についても何十年と議論がありました。エイズや結核、マラリアというコモンな疾患に対するワクチンの実用化はようやく夜明け前と言ったところです。

2.そんな中で、新型インフルエンザです。まだ見つかったばかりのこの疾患、そして原因となるウイルスについて、我々は多くのことを知りません。

 予防接種については接種により抗体が産生されること、健康な方に接種するとわりと副作用が少ないことが分かってきました。国内産のワクチンについては、有効性も安全性もまだまだ未確定で、臨床試験すら行われていません。本当のワクチンの持つ意味については、やってみないと分からないところも大きいでしょう。

 国外の輸入ワクチンについても臨床試験の中間データが発表されたまでで、「抗体がある程度できる、健康な人を対象とすれば」「わりと安全」ということを我々は知っています。しかし、それ以上のことは知りません。

 妊婦や基礎疾患のある方など、多様な方へのデータはまだ検証不十分です。抗体が出来ることと実際に感染症を防御したり、症状を緩和したり、入院・死亡といった大きなアウトカムに寄与するかどうかはまた別の問題で、これにはもっともっと時間が必要でしょう。日本での臨床試験も始まったばかりです。

 この報道から、一般の方ができる新型インフルエンザに対する予防方法で、一番肝心で誰でもできることは、体の調子や免疫力を高めることだと考えます。規則正しい生活、適度な運動、偏らない食事をすることや、過剰なストレスを受けないこと、生活に笑いを取り入れることなどが重要です。

 また、鍼治療が風邪症候群の予防に役立つことを、生体防御免疫疾患班を代表して角村幸治先生が「かぜ症候群の予防に対する鍼治療の有効性 -多施設によるアンケート調査-」(全日鍼灸学会雑誌59巻4号,416-420,2009)と題して報告しています。

 この研究は、東洋医学研究所グループの12施設に来院した患者215名に対し、①鍼治療前の1年の風邪罹患回数、②鍼治療後の風邪罹患回数の変化、③鍼治療来院期間についてアンケートにより調査・分析したものです。

 その結果は、鍼治療来院期間2年未満では風邪をひきにくくなったと回答した人は45.9%であり、2~4年で63.3%、4年以上で82.8%となり、長く鍼治療を受けることで風邪症候群を罹患しにくくなったと自覚する患者が増えることが報告されています。

 

 

 以上のことから、自然な方法で免疫力を高める努力をしたうえで、正しいうがいや、手洗い、マスクの着用を心がけることが必要だと考えます。

 

このような努力は、体調を良好に保ち、通常のインフルエンザの予防にも役立つと考えられるため、是非実行して頂きたいと思います。