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鍼灸院における来院患者の実態調査

平成21年10月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『鍼灸院における来院患者の実態調査』と題して、生体制御学会不定愁訴班班長の石神龍代先生に以下のように解説して頂きました。

 

鍼灸院における来院患者の実態調査

 

生体制御学会研究部 不定愁訴班班長

石神 龍代

 

 去る9月6日に行われました第27回生体調整機構制御学会学術集会シンポジウム「水際での鍼灸診療」におきまして、不定愁訴班では21鍼灸院のご協力を得まして鍼灸院を訪れる患者の実態調査を行い報告しました。

 調査方法は2009年1月~5月までの5ヶ月間に来院した新患及び3ヶ月以上間の開いた再診患者を対象に、(1)性別・年齢分布(2)主訴・自覚症状(3)初診時の不定愁訴カルテ(健康チェック表)の分析を行いました。

 結果は、対象患者は637名(男性265名、女性372名)、平均年齢50、5歳(最小年齢は0歳、最高年齢は94歳)でした。年齢は30歳代から70歳代が多い山形パターンを示しておりました

 主訴の上位10項目は、腰の痛み、肩の痛み、肩のこり、頚の痛み、膝の痛み、上肢の痛み、背中の痛み、頭の痛み、下肢の痛み、上肢のしびれでした。

 自覚症状の上位10項目は、腰の痛み、肩の痛み、肩のこり、頚の痛み、膝の痛み、背中の痛み、頭の痛み、頸のこり、上肢の痛み、下肢の痛み、不眠でした。

 対象患者637名のうち初診時に健康チェック表を記入していただい患者は435名で、男性171名、女性263名、平均年齢51、1歳(最小年齢は15歳、最高年齢は86歳)でした。

 不定愁訴指数による重症度分類は、5点未満の除外が15.2%、軽症が45.1%、中等症が30.8%、重症が7.6%、51点以上の除外が1.4%でした。

 不定愁訴指数の層別分類は、自律神経失調性項目は24.0%、神経症性項目は18.4%、うつ状態性項目は26.2%、その他の項目は31.4%でした。

 不定愁訴項目記入率上位10項目は、(43)肩や首筋がこる、(44)腰や背中が痛くなる、(30)目が疲れる、(29)自分の健康のことが気になる、(8)手足が冷える、(5)下痢、あるいは便秘をする、(10)仕事をすると疲れてぐったりする、 (25)頭重や頭痛がある、(45)手足に痛みやシビレがある、(9)足がだるいでした。

 今回の調査では、来院患者の男女比は1:1.4であり、女性が多く来院していました。年齢は30歳代から70歳代が多い山形パターンでありました。これは、1996年の安藤らの703名を、2004年の筆者らの1436名を対象とした調査では、いずれも50歳代を頂点とした山形パターンであったことから、鍼灸院来院患者の年齢が若年化している傾向が伺えました。

 来院動機である主訴については、鍼灸治療の適応症として一般的に知られている痛みに関する症状が上位を占めていましたが、そのほかに多彩な主訴の改善を求めて来院していること、また、それらに伴う多彩な自覚症状を抱えていることが明らかとなりました。

 来院患者に不定愁訴カルテを使用することによって、より詳細な健康状態を把握することができました

 鍼灸治療が医療として民衆に支持されるには、鍼灸医学の基礎研究と、それに基づいた臨床における鍼灸治療の効果を実証医学的に検証していくことが不可欠であります。

 その意味におきまして、今後も鍼灸治療の効果の実証医学的証明のために、重症度判定基準、効果判定基準のある不定愁訴カルテを大いに活用していきたいと思います。

 また、この趣旨を理解し、一緒に研究活動にご参加下さる会員が増えることを切望します。

 最後となりましたが、今回の報告をするにあたり、ご協力賜りました諸先生方に深謝いたします。