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第241回定例講習会

日時:平成21年4月5日  午前10時~午前10時50分

場所:名古屋市立大学医学部教育棟2F 第1講義室

内容

1)設立記念講演

「生体調整機構と鍼灸診療との関わりについて」

(社)生体調整機構制御学会代表理事  黒野保三先生

(内容紹介)

 平成21年4月5日に一般社団法人生体調整機構制御学会の設立記念公開講演が「生体調整機構と鍼灸診療との関わりについて」と題されて行われました。たくさんの出席者に対するお礼の後に講演に入られました。

 「近年の医療の発達はゲノムの解明などに代表されるように、ゆるぎない進歩の方向に進んでいますが、医療の現場や医療行政は生命科学の発展と比例しているとは思えません。特に医療の水際では、医療崩壊や、時には目や耳を覆いたくなるような報道が後を絶たず、今後の医療行政に不安を感じている人が増えてまいりました。そのような時代において医療崩壊の防止のためには医療連携が期待され、その一端を担うものとして統合医療・代替相補医療という名があがってきているのも事実です。

 さて、そこでヒトの成り立ちを考えてみますと、60兆といわれる細胞を持つわけですが、その一つ一つにも調節機構を持ち、それらが集まった組織でも調節機構を持ち、その上の器官でも調節機構を持ちヒトとなって生命活動するわけです。その調節機構がうまくいっているかいないかによって、健康か病気かをみることができると思います。しかしながら、そのメカニズムについて未だ集学的な研究が行われていないのが現状です。そこで、生体調整機構にかかわる過去、現在、未来についてみていこうと思います。

 鍼灸診療に来院されている患者さんをみてみますと、いろいろな症状で来院されます。そして長期に治療されると自分で変化を感じられるのみならず、第三者から評価されるようになります。その病態は器質的疾患(例えば肝臓病)のみならず、器質的疾患はないけれども症状があるという場合にも有効であることを示すことができました。このような現象があるということは、おのずからその根拠があるはずです。しかしながら、まだ鍼灸現象は未科学の部分があります。自然現象には必ず自然科学理論があるはずです。一方、自然現象がありながら現在の科学では解明しきれない、いわゆる自然科学では計れない基礎理論があります。つまり、①自然現象に対する仮説を立てる②自然現象に対する仮説を検証する実験計画を立てる③実験と結果を繰り返し正しい結果を出す④結果を基に考察し結論を見いだすという手続きを踏むことが必要になるわけです。

 その一つとして鍼灸治療の根本である経穴についてでも未だに説明すらできないのです。私が行った経穴の研究でやっと経穴の有効的な深さを示唆できているに過ぎないのです。そこで、鍼一本を刺入した時の生理学的反応、免疫学的反応や組織再生の仮説もやっと始まったといったところです。しかしながら、1980年から6回続けて学会発表した免疫の研究から肝臓や膵臓の臓器の変化や長寿に関与するデータなど明らかにすることができたことも事実です。また、心拍ゆらぎリアルタイム解析システムから自律神経に影響をあたえることができたことも事実の一つです。

 このような、すばらしい結果があるにも関わらず、研究が進まない要因がもう一つあります。つまり、鍼治療には修練がいるということです。どうしても若い鍼灸師で行うと刺鍼のばらつきがあります。それを工学部の先生と数値化したデータで解析しますと明らかに熟練者との差がでます。しかしながら、今までどのくらいの修練が必要かという議論さえできなかったことが、種々の分野で検討することによって推定できるレベルまでくることはすばらしいことであります。

 このような鍼灸医学を有効に使う手段がこれから必要となります。鍼灸と一般西洋医学のどちらかが必要ということではなく、すべては患者のためにどのような治療体系をとることが必要かということが大切になります。その時に、集学的な研究によって鍼灸の価値や必要性を認識させるほどの一つの基盤となるのがこの生体調整機構制御学会となります。」と発足にあたっての講演がなされました。

 非常にわかりやすい内容で参加された医療関係者のみならず、一般の患者さんからも鍼灸治療についての認識があがったとの声を頂くことができました。

 

 

2)一般社団法人 生体調整機構制御学会設立総会