平成21年4月号
生体制御学会ホームページ委員長
河 瀬 美 之
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『末梢動脈疾患(PAD)の基礎知識、徒手検査の重要性』について、生体制御学会研究部疼痛疾患班の担当として私が以下のように報告致します。
末梢動脈疾患(PAD)の基礎知識、徒手検査の重要性
生体制御学会研究部疼痛疾患班
河瀬 美之
しばらく歩くと下肢痛のために歩行困難になるが、しばらく休むとまた歩けるようになるという間欠性跛行を訴えられて鍼灸院に来院される患者さんがあると思います。この症状を聞いてすぐ頭に思い浮かべるのが腰部脊柱管狭窄症ですが、以外に多いといわれているが末梢動脈疾患(PAD)です。最近、上肢に対する下肢収縮圧の比で表わされるABI(Ankle brachial pressure index)が短時間で簡単に測定できるようになり、ある程度、PADの診断の指標として容易に使用されるようになったことから、腰部脊柱管狭窄症とPADの間欠性跛行の鑑別が重要視されるようになってきました。
PADには塞栓や血栓による急性下肢虚血や、急性大動脈症候群といわれる大動脈解離や大動脈瘤破裂といった命に関わる重要な疾患があります。特に急性大動脈症候群は胸痛、腹痛、背部痛、腰痛、呼吸困難、冷汗、意識障害、嘔吐、失禁、下血など症状が多彩であり、90%以上の人に腰痛または背部痛を伴いますので、既往歴などの聴取が欠かせません。今回は前者の急性下肢虚血について述べてみたいと思います。
間欠性跛行の約8割が腰部脊柱管狭窄症、2割がPADまたは両方の合併と言われていますが、文献によっては3割がPADという記載もあります。脳・冠動脈疾患の既往や糖尿病・高血圧・喫煙習慣など動脈硬化危険因子がPADを引き起こす原因のひとつと考えられているため、患者数はこれからさらに増加すると言われています。
そこで、臨床症状や徒手検査である程度特徴的なものがありますので、このことについて述べてみたいと思います。
腰部脊柱管狭窄症 | PAD | |
下肢痛の軽快姿勢 | 座位で前屈位 | 座位 |
立位による増悪 | なし | あり |
疼痛部位 | 下腿全体、大腿後面 | 腓腹筋部 |
下肢挙上テスト | 時にしびれ感 | 30秒ほどで患側下肢が蒼白 |
動脈拍動異常 | なし | あり |
急性下肢虚血により下肢切断といった最悪な事態を招かないためにも、早期診断が重要となります。
上記の臨床症状はあくまでも目安ですが、間欠性跛行の患者を診る時にこのような疾患もあることを念頭において的確な問診や触診、徒手検査を行う必要性を感じました。
日頃の臨床の参考にしていただければと思います。