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インフルエンザワクチンと風邪薬について

平成20年3月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は インフルエンザワクチンと風邪薬について、生体制御学会研究部生体防御免疫疾患班班長の井島晴彦先生に以下のように解説して頂きました。

 

インフルエンザワクチンと風邪薬について

 

生体制御学会研究部 生体防御免疫疾患班班長

井島 晴彦

 

 昨年末に、インフルエンザの予防について、次のような報道がありました。

 「インフルエンザや新型肺炎(SARS)などの呼吸器系ウイルスの感染を予防するには、薬よりも手洗いやマスクの着用といった物理的な方法が効果的との可能性を示す研究結果が明らかになった。

 これは国際的な科学者チームが、51の研究結果を精査。所見を英医学会会報で発表したもので、研究チームでは「山のような証拠は、ワクチンや抗ウイルス薬がインフルエンザの感染を予防するのに不十分であることを示した」として、国の流行病対策プランはより簡単で安価な物理的手段に重点を置くべきだと提言している。

 同チームによると、手洗いやマスク、手袋、ガウンの着用はそれぞれが呼吸器系ウイルスの感染予防に効果的であり、それらを組み合わせることでさらに予防効果が高まるという。」

(2007年11月24日 ロイター)

 

 また、子供の風邪薬について次のような報道がありました。

 「風邪がはやるこの季節、多くの人が風邪薬を使う。ところが、米国で薬の許認可を行う食品医薬品局(FDA)の小児医療に関する諮問委員会は昨年10月、せき止め、鼻水止めなどの市販の風邪薬は、6歳未満の小児には使用すべきではないと勧告し、波紋を呼んでいる。子供への効果が確認されていないうえ、まれに重い副作用が起きる、という理由からだ。

 FDAは、風邪薬で、せき、くしゃみ、鼻水といった症状が緩和されたかどうかについて、過去のデータを検証した。その結果、実際に患者に使って効果を調べた臨床試験は11件しかなく、18歳未満の子供を対象とした風邪薬の効果は確認できなかった、としている。

 一方、風邪薬による副作用被害も起きている。米国では今年1月、せき止め薬を飲んだ1歳未満の乳児3人が死亡した例が報告された。この後、米ジョンズホプキンス大教授ら有力な小児科医16人が「せき止め薬や、くしゃみ、鼻水などへの抗ヒスタミン剤を含む風邪薬は、6歳未満の幼児には有効性も安全性も認められない」との声明を出すようFDAに求め、今回の勧告につながった。

 問題になった米国の風邪薬は、薬液をスポイトで計量する、日本にはない形態の薬で、誤って過剰投与したことが原因とみられる。

 市販薬メーカーでつくる日本大衆薬工業協会は「日本の小児用シロップ剤は、濃度が米国製品の10分の1から20分の1で、重大な事故は起きていないが、用法、用量の厳守を」と呼びかけている。

 それでも、市販の風邪薬(総合感冒薬)を巡っては、日本でも肺炎、肝炎、けいれん、呼吸困難などの重い副作用が、成人、小児合わせて、昨年1年間だけで129件報告されており、軽視できない。

 薬害を監視する医薬ビジランスセンター理事長の医師、浜六郎さんは「日本の風邪薬にも米国と同様の成分が使われており、小児への効果の裏付けがなく、副作用の恐れがある事情は同じだ」と指摘する。

 医療機関でも、風邪の子供に、せき・鼻水止めなどの薬が処方されるが、やはり効果ははっきりしない。浜さんは「医師が処方する風邪薬は、成分が市販薬の1・5倍から2倍多く含まれ、副作用の危険が、より大きい。市販薬、処方薬とも、6歳未満は使用禁止にすべきだ」と言う。 勧告を受け、FDAは小児への使用規制を行うかどうか検討しており、厚生労働省は「米当局の対応を見守りたい」としている。

 風邪の原因であるウイルスに効く薬はなく、薬で治すことはできない。まずは薬に頼らず風邪に対処する手立てを考える。」

(2007年12月24日 読売新聞)

 

 

 上記2つの報道から、現時点では、インフルエンザを含む風邪症候群に対しての予防方法や治療方法は確立されておらず、医療の現場でも混乱している様子がうかがえます。

 

 予防について一番肝心なことは、なるべく自然な方法で体の免疫力を高めることだと考えます。規則正しい生活、適度な運動、偏らない食事をすることや、過剰なストレスを受けないこと、生活に笑いを取り入れることなどが重要です。

 また、鍼治療が風邪の予防に役立つことを、生体防御免疫疾患班を代表して角村幸治先生が第54回(社)全日本鍼灸学会学術大会(福岡大会)で「鍼治療による風邪罹患回数の変化」と題して報告しています。この中では、鍼治療の継続期間が長い患者さんほど、風邪をひきにくくなったと感じていることが報告されています。

 以上のような自然な方法で免疫力を高める努力をしたうえで、正しいうがいや、手洗い、マスクの着用を心がけることが必要だと考えます。

 それでも風邪をひいてしまった場合には、まず、安静と十分な水分補給、保温、睡眠が重要です。

 そして、状況によっては専門医との連絡を取りつつ、体力回復のための鍼治療をお勧め致します。