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ドイツ研究チーム、腰痛には「はり治療」が効果的

平成20年1月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は『ドイツ研究チーム、腰痛には「はり治療」が効果的』について、生体制御学会研究部疼痛疾患班の担当として私が以下のように報告致します。

 

ドイツ研究チーム、腰痛には「はり治療」が効果的

 

生体制御学会研究部 疼痛疾患班班長

河瀬 美之

 

 諸外国での疼痛疾患治療の主流は薬物療法や理学療法である。しかし、薬物療法には副作用が伴い、この副作用を抑えるさらなる投薬が必要となり、費用/便益比の改善が求められている。

 そこで、英国をはじめとする欧州、米国などで鍼治療の有効性、安全性、費用対効果を認める報告が多く、特に英国では鍼治療が最も一般的な補完治療として利用され、ヘルスサービス従事者の臨床で20%、慢性疼痛クリニックで84%の割合であると報告されている。

 AFPBBNewsの2007年9月25日に掲載された記事で医学誌「Archives of Internal Medicine」に投稿されたドイツの研究チームで行われたランダム化比較試験について報告する。

 8年間にわたり腰痛症状を抱える患者1162人(平均年齢50歳)を対象に3群にわけて臨床試験(1例に対し半年間)を行った。

 1群.皮下5-40ミリの深さまで刺す「中国式はり治療」を30分間、2週間おきに

    合計10回施術した。

 2群.皮下1-3ミリにとどめる「疑似はり治療」を行った。

 3群.薬物投与、理学療法、リハビリ運動などの「従来治療法」を施した。

 半年後、腰痛症状の改善がみられたと回答した患者は、1群で47.6%、2群で44.2%、3群で27.4%であった。

 このことから、「はり治療」が「薬物投与、理学療法、リハビリ運動」などの治療法より効果が高かったことを示している。

 このように、欧米では腰痛をはじめ、膝痛に対しても鍼治療の有効性を検討する大規模な研究が増えた。

 今回の報告で2群の「擬似はり治療」では(社)全日本鍼灸学会愛知地方会名誉会長の黒野保三先生の基礎的実験では3ミリから生体に反応が認められることを報告されており、この状態でも効果があったことから、偽鍼とみなすことが困難であると思われ、今後は鍼治療の基礎的研究が急務と思われる。

 鍼灸院の臨床現場で臨床比較試験を行う場合、対象を腰痛や膝痛患者とすると研究期間を長期で行うことは困難であるのが現状である。疼痛疾患班では2002年から腰痛に対する鍼治療の臨床比較試験を1回の治療で評価を行ったところ、偽鍼より鍼治療の方が有意な改善がみられたことから、鍼治療の有効性が示唆され、2006年発刊の全日本鍼灸学会雑誌56巻2号に報告した。

 本邦でも大規模な臨床比較試験を行い、鍼治療が医療のひとつとして国や民間から認知してもらえるように努力する必要性を感じた。