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臨床鍼灸研究のあり方について- 英国の変形性膝関節症研究の問題点 -

平成19年11月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は英国の変形性膝関節症研究の問題点について、生体制御学会研究部情報・評価班班長の皆川宗徳先生に以下のように解説して頂きました。

 

臨床鍼灸研究のあり方について

- 英国の変形性膝関節症研究の問題点 -

 

生体制御学会研究部 情報・評価班班長

皆 川 宗 徳

 

 英国や欧州の治療ガイドラインは、患者教育、運動と共に、投薬の役割を強調している。しかし高齢の患者は、長期にわたる薬物療法を好まず、補完医療を希望する傾向が強い。英国の補完医療の中で、最も一般的なものの一つが鍼治療で、10%を超える英国の一般開業医が、毎週、鍼治療ができる施設に患者を紹介、または自身が鍼治療を行っているというデータもある。実際に、変形性膝関節症患者に対し、鍼治療はプラセボよりも有効であるとする系統的レビューの結果も報告されている。

 Keele大学のNadine E Foster氏らは、膝の痛みを訴える高齢者には、薬物療法よりも運動を中心とする理学療法の方が有効であることを示していた。新たに鍼治療を加えると、さらに効果は上がるだろうか。この問いに答えるために、変形性膝関節症患者の膝の痛みの軽減を目的として理学療法士が指導する一連の運動とアドバイスに、鍼治療を追加した場合の利益を評価する多施設試験を実施した。

A群 : ベースとなる治療は、データに基づいて理学療法の中で最善と判断されたアドバイスと運動の組み合わせ。患者にリーフレットも配布(116人)。

B群 : A群に伝統的な中国式鍼治療を追加(117人)。

C群 : 本当の鍼ではなく先端が鈍い鍼を用いるため、圧迫刺激のみで体内には入らないが、鍼治療経験のない患者には真の鍼と区別がつかない、刺入しない鍼療法を追加(119人)。

 評価指標は、変形性関節症のための自己記載式評価法であるWOMACの中の痛みのスケールの6カ月間の変化。2次アウトカムは、6週時、6カ月時、12カ月時の膝関節の機能、痛みの強さ、痛みの不快度などとした。

 結論は、3群間に有意な差は認められなかった。A群もB群も痛みの程度に減少傾向が認められたが有意な差が認められないとし、理学療法に鍼治療を加えた場合の鍼治療による利益の追加は見られないことを示した(詳細はBMJ誌電子版に2007年8月15日に報告された。)。

 今回の研究は理学療法に鍼治療を追加した場合の利益の追求であり、その点で評価がされなかったが、変形性膝関節症患者に対する鍼のエビデンスとしては、鍼治療単独群を設定して研究する必要性を強く感じた研究報告であった。