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アディポネクチンは脳では悪玉?我々の食生活が悪いのであって悪玉ではないかも!

平成19年9月号

生体制御学会ホームページ委員長

河 瀬 美 之

 

 平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、トピックスに掲載されたメディアの記事の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。

 今回は7月11日の朝日新聞にアディポネクチンの記事が載り、トピックスに掲載致しましたが、その記事に対して、生体制御学会研究部生活習慣病班班長の中村弘典先生に以下のようなコメントを頂きました。

 

アディポネクチンは脳では悪玉?

我々の食生活が悪いのであって悪玉ではないかも!

 

生体制御学会研究部 生活習慣病班班長

中 村 弘 典

 

 大阪大学分子制御内科学教室で、脂肪細胞について研究を行っていたところ、脂肪細胞から分泌される未知の物質であるアディポネクチンが発見されました。

 肥満により脂肪細胞が肥大すると、その反対にアディポネクチンは減少し、糖尿病の原因となるインスリン抵抗性が増大することが報告されており、アディポネクチンは、脂肪の燃焼や血糖値低下を促すなど、糖尿病の予防に繋がる善玉ホルモンと呼ばれています。

 最近、東京大学の研究チームの門脇孝教授(糖尿病・代謝内科学)らがアディポネクチン(低分子型)には、上記のように食欲増進、脂肪の蓄積、エネルギーの消費を減らすなどの悪玉の働きもあることを突き止めました。

 しかし、私の意見としては、アディポネクチンが脳で悪玉として働くのではなく、倹約遺伝子として飢餓時に脳を守るために、消費エネルギーを減らし緊急時に備え脂肪を蓄えているのだと思います。人体においては生活習慣病である糖尿病を予防する前に、自分の脳を守ることこそが大切であり、この意味で本来善玉ホルモンではないでしょうか?

 また、アディポネクチン(高分子型)が筋肉や肝臓で良い働きをしていると言っても、現代の食の欧米化に伴う飽食の時代に、本来は働く必要のない善玉のホルモンと呼ばれているに過ぎず、メタボリック症候群の原因の根本である食事療法・運動療法を行わず、アディポネクチンのような薬物を開発し、糖尿病を治そうなどと言う治療方法には警鐘を鳴らしたいと思います。

 このように、同じサイトカインにおいても分子量の違いにより、異なった様々なすばらしい働きが存在することに感謝したいと思います。

 

※ 用語解説

・アディポネクチン:脂肪細胞から分泌されるホルモンの一つ

・アディポサイトカイン:アディポネクチンを含めたレプチン・レジスチン・TNF-αなどの

 脂肪細胞から分泌されるサイトカインの総称