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糖尿病に対する鍼治療の一症例-糖尿病性神経障害を発症した症例-(岡山大会)

東洋医学研究所®

中村弘典、黒野保三

 

【目的】

糖尿病合併症は患者のQOL低下に大きな影響を与えることが問題となっており、今日の糖尿病治療の目的は合併症の予防や進行の抑制に重点が置かれている。

我々は、第55回(社)全日本鍼灸学会学術大会において、糖尿病性神経障害(外転筋麻痺)に対し鍼治療が有効であることを報告した。

今回は、糖尿病性神経障害の中でも多発性神経障害(神経痛)を発症した症例に対し鍼治療を行ったところ、効果が得られたので報告する。

【症例】

患者は58歳女性、主訴は身体だるく両足が痛む。治療方法は全身調整を目的とした太極療法(黒野式全身調整基本穴)と症状に随った局所療法とした。治療期間は平成17年10月4日から平成18年3月29日までの176日間(70回)で、週2回以上の頻度で単刺術を行った。治療経過は(社)全日本鍼灸学会愛知地方会研究部生活習慣病班糖尿病カルテ及び(社)全日本鍼灸学会研究部不定愁訴班不定愁訴カルテを使用し、食後2時間血糖値と糖尿病自覚症状点数及び不定愁訴指数を指標に糖尿病コントロール状態を検討した。

【結果】

初診時の主訴であった両足が痛むが、4ヶ月後に痛みが軽減され6ヶ月後に消失した。また、初診時の食後2時間血糖値が198mg/dlであったものが6ヶ月後に169mg/dlと改善され、糖尿病自覚症状点数が24点であったものが6ヶ月後に8点と改善され効果判定は有効となった。さらに、初診時の不定愁訴指数が22点であったものが、22回目来院時に15点と改善され効果判定は比較的有効となった。

【考察と結語】

今回、全身調整を目的とした鍼治療を行った結果、両足の痛みが消失し、糖尿病状態の指標となる食後2時間血糖値及び糖尿病自覚症状に改善がみられた。また、全ての疾患のスクリーニングとして使用している不定愁訴指数に改善がみられたことから、鍼治療は糖尿病合併症の治療方法として有用であり、患者のQOL改善に大きな役割を果たす可能性が示唆された。

キーワード:糖尿病、太極療法(黒野式全身調整基本穴)、HbA1C、糖尿病カルテ、血糖値