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腰痛に対する鍼治療の検討(5)-腰痛と不定愁訴カルテの関係について-(金沢大会)

愛知地方会研究部疼痛疾患班

〇杉﨑文彦、河瀬義之、石神龍代、中村弘典、服部輝男、皆川宗徳、甲田久士、井島晴彦、加納俊弘、中村高行、絹田 章、校條由紀、黒野保三

 

【はじめに】

 我々は腰痛に対する鍼治療の症例集積を多施設で行い、腰痛に対する鍼治療の有効性を実証医学的に見出し、第51回~53回(社)全日本鍼灸学会学術大会において報告し、第54回大会において腰痛と(社)全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班の不定愁訴カルテの関係について報告した。今回はさらに症例を増やし、不定愁訴の層別に検討したところ、興味ある結果が得られたので報告する。

【対象】

 平成12年5月より平成17年10月までの期間に13施設に来院した患者のうち、主訴が腰痛であった患者116例(平均年齢51.5歳、男性72例:女性49例)に対し鍼治療を行い、visual analogue scale(VAS)と不定愁訴カルテを使用して評価した。

【方法】

 今回は腰痛患者の罹病期間を短期(2週間以内)と長期(2週間以上)に分類した。第54回全日本鍼灸学会学術大会において、井島らによって示唆された不定愁訴カルテで、痛みが続くことによって悪化するうつ状態性項目の患者は治りにくいこと、腰痛では運動疾患の項目が多いその他の項目が多いことを考慮し、その他の項目とうつ状態性項目を比較する目的で以下の3つの群、1群:その他の項目点数が多い群、2群:うつ状態性項目とその他の項目点数が同じ群、3群:うつ状態性項目点数の多い群に分類し、VASによる鍼治療の有効性について検討した。

【考察】

 腰痛の罹病期間と不定愁訴の層別分類において、罹病期間が短期の場合には3群とも有意な改善が認められたが、罹病期間が長期の場合には1群と2群では有意な改善が認められたが、3群では有意な改善が認められなかった。

 腰痛の罹病期間が長期に亘りうつ状態性項目が高い症例は腰痛が改善されにくい結果から、慢性の腰痛の予後を推測するのに不定愁訴カルテが有用であると思われ、この場合の鍼治療法として、局所療法に加え太極療法を必要性が考えられた。

【結語】

 腰痛患者に対して不定愁訴カルテを使用することは、病態や罹病期間を把握することと同様に、予後の判定や治療方針の決定のために有用であると考えられた。