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末期膵がん患者に対し鍼治療を行った一症例(金沢大会)

愛知地方会 東洋医学研究所®

米山徹子、黒野保三

 

【目的】

  膵がんは早期に特徴的な症状がないため発見が遅れることが多く、予後が悪い難治性のがんの代表である。今回、日本膵臓学会の分類において膵がんステージⅣで肝臓への転移のあった患者に、抗がん剤による化学療法と鍼治療を行った経過を報告する。

【症例】

  49歳男性。患者は、2005年3月より微熱が続き、全身倦怠感、背部痛、1ヶ月で5kg体重が減少するなどの症状が起こり、4月に膵がん(膵尾部に3~4cmの腫瘍)と肝臓へのがん転移の診断を受けた。当院での治療法に関するセカンドオピニオンを希望し、化学療法と鍼治療を併用することを決定した。4月25日腫瘍マーカーはCEA;615、CA19-9;290600と高値を示し、鍼治療(太極療法)は2005年4月27日~8月22日までの119日間(60回)行った。

【結果】

  5月18日より抗がん剤ジェムザールを開始したところ、CEA;2866、CA19-9;961000と急激に上昇し、肝機能数値も上がった。症状悪化や黄疸もみられたため、6月15日よりTS1に変更し、検査データは安定して一時体調も回復した。6月30日~7月12日は化学療法を行わず、食欲が増し身体も楽になったが、7月13日よりTS1を再開したところ、食事が困難なため体力の消耗が著しくなり、背部痛も増強し、8月9日よりTS1を中止した。その後も鍼治療を受けていたが、食欲不振、嘔吐やしゃっくり、黄疸、腹水などの症状から8月29日ホスピスへ入所した。尚、全期間を通じて、患者は鍼治療を受けると腸が動く、背部痛が楽になるなどを自覚し、精神的にも楽になっていた。

【考察・結論】

  膵がん患者には外科治療、化学・放射線・対症療法などが行われる。本症例の経過をみていく中で、鍼治療は膵がん症状や化学療法の副作用の緩和、精神的な安心を与えることが期待でき、有用性を検討していく必要性が示唆された。

 

【キーワード】鍼治療(太極療法)、膵がん、腫瘍マーカー、化学療法、副作用