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知識と技と人間性

平成17年10月1日

教育部長  服部輝男

              

 技術とは新選国語辞典によれば「理論を実際に応用する手段」。技能とは「技法・技(わざ)」とあります。

 ある最先端企業の方にお聞きしたところ近代企業においてはこの技術と技能の違いを認識し同じテーブルで話し合う機会が盛んに設けられているようです。

 つまり理論に裏づけられた設計者と長年その技術に携わってきた職人が話し合いの場を設けているということです。その内容で興味あることは設計者には実際に物を造らせ、職人にはその技を理論付ける勉強をさせるというものでした。それによりお互いの価値と自分の置かれている立場や欠点を理解し合え、また徹底した人間教育(5S)※1が実践されることにより、トラブルやミスを減らし、より高い業務が確立されるそうです。

 技術だけでよいならば、他のどのような国でも同じ物が造れるはずですが、人間教育をすることにより他国ではまねのできない精度の高い製品を速く造りあげる事ができ、国際競争力においても日本の企業はリードしつづけているそうです。

 現在の鍼灸は如何でしょう。ほとんどの先生は臨床家であり、研究者と呼ばれる先生はほんのわずかです。実際の臨床において技が必要であることは勿論ですが、残念なことに師弟関係も崩れ、技や人間形成の継承も少なく、実技試験もないまま免許を取得し、自分の実力レベルを量る基準もないのが現状ではないでしょうか。

 また鍼灸の科学的根拠を構築すべき研究者の中には臨床実績が少なく痛い鍼で動物実験などをし、良い結果が得られないということもお聞きします。

 (社)全日本鍼灸学会愛知地方会には研究者と呼ばれる先生が多数おられます。またその多くが師に就いて技と人間形成を身に着け、研究においてもすばらしい業績を残しておられます。

 皆さんにぜひ知っておいていただきたいのは、愛知地方会で研究されている先生は日々数多くの難解な患者さんの治療に携わっている一流の臨床家であり、学会のみならず鍼灸界ひいては私たち鍼灸師にとって大変貴重な存在であるということです。

 その筆頭である黒野保三名誉会長には過去の定例講習会(第157回~182回「鍼灸診療と人間形成」)において鍼灸医としての人間形成※2について教えていただき、現在でも「臨床鍼灸医学研究」において科学のみならず、臨床家としての研究の仕方、医療情報、社会情勢など現在の鍼灸師の立場や状況など理解しやすく講義していただいております。

 このHPをご覧のみなさんもぜひ定例講習会や研究班活動に参加され一流の臨床家・研究者の先生にお会いし、その知識と技と人間性を学んでいただきたいと思います。

 

 

【参考文献】

※1 5Sとは製造業のみならず成長する組織が仕事以前に最低限身に付けるべき業務内容。

整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ) のSをとったもの詳しくは下記URLへ

 http://www.navigate-inc.co.jp/5S/

 http://bizdo.jp/factory/manners/k3/TK3-07.htm

※2 黒野保三:鍼灸診療と人間形成(1);東鍼研進歩集平成7年度版.1996

   黒野保三:鍼灸診療と人間形成(2);東鍼研進歩集平成8年度版.1997

   黒野保三:鍼灸診療と人間形成(3);東鍼研進歩集平成9年度版.1998

   黒野保三:鍼灸診療と人間形成(4);東鍼研進歩集平成10年度版.1999