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起立性低血圧に対する鍼治療の一症例(福岡大会)

愛知地方会研究部循環器疾患班

○加納俊弘 服部輝男

【目的】

起立性低血圧と診断された患者にパラマ・テック社製コロトコフ音記録計を使用してShellongの起立試験と(社)全日本鍼灸学会研究部不定愁訴班作成の健康チェック表を使用し鍼治療の有効性を検討したところ興味ある結果が得られたので報告する。

【症例】

患者は78歳男性で、主訴は起立性低血圧で立っていられない。そこで初診時にコロトコフ音記録計を用い起立試験を行ったところ、臥位では130/68mmHgでコロトコフ音図は安定していた。3回測定後立位で測定したところ起立4分後には45/41mmHgと血圧は著しく低下し患者はチアノーゼを呈したため直ちに臥位を取り測定したところ血圧値は101/59mmHgに回復した。このような患者に生体の総合的統御機構の活性化を目的に、16回(57日間)の鍼治療を行った。

【結果】

体調は良くなり、散歩や家庭菜園まで行えるようになった。立位で血圧測定を行ったところ116/62mmHg心拍74を維持し、コロトコフ音図は虚血型ではあるが回復傾向を示した。また、不定愁訴カルテによる重症度判定では重症であり、効果判定は比較的有効となった。

【考察・結語】

今回の症例は、Y病院で精密検査を受けた原因不明の起立性低血圧は、排尿排便障害、構音障害、などの諸症状がないため中枢神経の変性を伴うシャイ・ドレーカー症候群が除外されると思われる。よって加齢に伴う循環機能の低下に加え、他の疾患による神経障害によって自律神経機能に異常をきたし起立性低血圧の発症とともに、不定愁訴カルテにおいても重症度判定重症を示したものと思われる。本患者に生体の総合的統御機構の活性化を目的に16回の鍼治療を施し検討してみると家庭生活に不自由をきたさないまでにQOLが向上した。

今後も症例を積み重ね、循環器疾患に対する鍼治療の有効性を検討してゆきたい。

 

キーワード:コロトコフ音記録計、起立試験、健康チェック表、起立性低血圧、 シャイ・ドレーカー症候群