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筋傷害が誘引となる慢性痛症のモデル動物開発(福岡大会)

愛知医科大学 医学部 痛み学講座

○橋本辰幸、熊澤孝朗

 

【目的】

 末梢組織の“キズ”が治癒した後にも疼痛が持続する病態を慢性痛症と呼んでいるが、未だに治療法が確立されていない難治性疾患である。特に、軟部組織傷害が誘引している慢性痛症に関しては、病態に関する詳細な検討は少ない。これは、適当なモデル動物が開発されていないことが問題の一つとなっている。

  そこで今回、筋傷害に着目した慢性痛症モデル動物の開発を試みた。

【方法】

 ラットの一側の腓腹筋に、炎症性要因としてlipopolysaccharide(LPS)を、侵害性要因として高張食塩水(HS)を投与し筋傷害を作製した。実験群は、LPS単体投与群、HS単体投与群、LPSとHSの複合投与群とした。傷害部位の筋圧痛閾値と下腿周径を、また、傷害と関連のない足底部の痛み行動を経時的に測定し、それぞれの群と比較した。

【結果】

 LPSとHSの複合投与により足底部の痛み行動が10週以上亢進し、この反応は両側性にみられた。単体投与群では長期間の痛み行動は出現しなかった。傷害部位の圧痛と周径の変化については、群による傾向の違いはなく、短期間で消失した。

【考察】

 複合刺激により足底の痛み行動の亢進がみられたことより、炎症によるバックグランドの形成が慢性痛症の誘引には重要であることが示唆された。また、これらの反応は、傷害部位の変化が消失した後も持続し、しかも両側性にみられたことより、この痛み行動亢進には中枢神経系が関与していることが示唆された。

【結語】

 今回示した慢性痛症モデル動物は、病態の発症機序、治療法の開発に有用であると考えられる。

 

キーワード:慢性痛症、モデル動物、筋傷害、LPS、高張食塩水