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球脊髄性筋萎縮症を伴った頚部神経根症状に対する鍼治療の検討-頚部神経根症治療成績判定基準・VAS・握力を指標にした一症例-(福岡大会)

東洋医学研究所®

○米山徹子、黒野保三

 

【目的】

球脊髄性筋萎縮症は男性ホルモン受容体異常による進行性遺伝病であり、顔面や四肢近位の筋萎縮・痙攣、筋力低下、腱反射の低下、手指の振戦などがみられる。

今回、頚部神経根症状を訴えて来院し、後に球脊髄性筋萎縮症と診断された患者に対し鍼治療を行ったところ、興味ある結果が得られたので報告する。

【方法】

17年前にから頚を過度に後屈し、3~4年前から上肢のだるさと痛みや痺れ、手ふるえを強く感じ始め、1~2年前には急激に筋力の低下を自覚した患者(60歳男性)に対し、生体の総合的統御機構の活性化と局所症状の改善を目的とした鍼治療を行った。 治療期間は平成14年11月11日から平成15年2月10日までの92日間(22回)とし、頚部神経根症治療成績判定基準・VAS・握力を指標に症状の推移を客観的に検討した。(平成15年2月 N大学病院神経内科にて球脊髄性筋萎縮症の診断を受けた。)

【結果】

初診時のVASは6、鎮痛薬を中止したため一時痛みが出て悪化したが、最終時は再び6となった。頚部神経根症治療成績判定基準は初診時7点、2回目は2点と悪化したが、最終時は20点満点中13点に改善し改善率は46.1%であった。握力は右が安定し、左はやや上昇した。自覚的には痛みと痺れが改善したことから、鍼治療が鎮痛や修復機構などに影響したものと思われた。

【考察・結論】

全身調整と局所症状の緩和を目的に鍼治療を行った結果、頚部神経根症治療成績判定基準、VAS、握力に改善がみられた。このことから、鍼治療は頚部神経根症状と球脊髄性筋萎縮症に対する有効な一治療法であることが示唆された。患者は現在も鍼治療を継続しているため、今後も経過を観察し長期鍼治療の有効性を検討していきたい。

 

キーワード:太極療法(黒野全身調整基本穴)、頚部神経根症状、VAS、握力、球脊髄性筋萎縮症