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診療録記載の勧め

診療録記載の勧め

 

平成15年11月1日

ホームページ委員会副委員長  加納俊弘

 

 愛知地方会では偉大な先輩の先生たちにより始められた定例講習会がすでに209回を数えるに至りました。平成4年に当地方会の名誉会長で企画部長の黒野保三先生は定例講習会の中に症例検討会を企画立案され「症例報告と症例検討の進め方について」と題し口演され実施されております。

この症例検討会は(社)全日本鍼灸学会学術大会に発表するための足がかりとなり得るものだと思います。

 私たちが臨床の場で体験する現象や治療効果を評価検討するためには患者さんの色々な情報を得ておかなければなりません。

 また現在、盛んに求められている情報開示に対して、鍼灸診療が医療として信用を得るためにも正確に診療録1)2)を記載する必要があります。

 愛知地方会研究部には現在8班の研究班があり、それぞれ専門性のある併用カルテが作られておりますが、専門的内容は班長の諸先生にお願いすることにして、ここでは必ず記載すべき診療録の内容をご紹介します。

 

診療録の記載方法

氏名 生年月日 年令 性別 住所 電話番号=できる限り患者に書いてもらう

 

初診=来院した年月日

 

主訴=来院時の主要な理由

 

病名=医師の診断による具体的な病名

 

現病歴=主訴をもたらした現病の初発症候から来院するまでの間の数々の症候の経時的変化や、これに加えられた診断のすべて

 

既往治療=主訴、現病に対しどのような治療を、どこで、いつ頃受療したかをできる限り記載する

 

既往歴=過去に罹患した疾病

 

家族歴=父母、兄弟、子供、祖父母の現況を記載する。死亡の場合は、何才で何病で死亡したかをあきらかにする

 

結婚歴=既婚、未婚、離婚、死別の該当するものを記載する

 

社会歴=職種とどこで何をしているかを具体的に記載する

 

初診時自覚症状=術者の診察能力を十分生かして、できる限り詳しく記載する

 

初診時他覚所見=脉状診、脉差診、腹診、その他鍼灸医学の基本的診察と身長、体重、BMI、血圧値、心拍数、体温、血糖値、各種徒手検査、VAS、各種検査データなど近代医学的他覚所見を総合して記載する

 

要約=初診時の診察をまとめ、患者の実態と術者の主観を加えて要点をまとめると共に、治療方法、治療回数、治療期間などを考慮して記載する

 

治療方法

 

 目的=要約を基準として患者にいかなる治療を行うかの目的を記載すると共に、予後判定ができればそれも記載する

 

 選穴=使用穴をすべて記載する

 

 手技=単手術・置鍼術・その他の手技を記載する

 

 用鍼=使用した鍼の種類(材質、長さ、号数)を必ず記載する

 

 治療内容=治療の方法を具体的に記載する

 

 治療頻度・治療期間=要約を基準にあらかじめ記載しておく

 

 経過=随時治療経過を記載するが、治療計画に変更があった場合、その理由と変更を必ず記載しておく

 

 以上が診療録記載方法であり、治療後にその経過と効果の理由を考察し、症例検討会に報告し、症例検討を行い他の先生方の指摘、意見を参考にすることによって今後の診療に役立てるとともに、客観的な診方を養っていくことができると思います。

 

 最後に、私はこの愛知地方会で医学知識のみならず、大変色々なことを学ばせていただきました。その中で私たち鍼灸診療を業とする者が、医療人として日々の診療に際し、最低限行わなければならない事のひとつが、診療録の記載だと思います。

 

引用文献

1)黒野保三:鍼灸医学概論<改定増補>   平成8年10月 180-182 234-235

2)黒野保三:臨床鍼灸医学             2001年 1月 73-74